690.会話 魔物愛護の話
本日もこんばんは。
ふわもふは正義というSS。
「世の中には動物愛護という言葉があります」
「すばらしいですね。ぼくも命あるものを守り、愛したいです」
「そんなあなたに訊きたいのですが、この愛くるしいふわもふをどうするのですか」
「もちろん塵にします」
「暴力反対。愛護精神はどこに」
「ぼくが守るのは、この世界に生きる動物や人間です」
「こんなにふわもふなのに倒すなんて嫌です。私は魔物愛護を唱えようと思います」
「勇者が唱えちゃいけないやつ」
「だって、とてもふわふわなんですよ。守るべきだと思いませんか?」
「思いません。魔物は塵にして粉にしてこの世から消すべきです」
「魔王さんが魔王みたいです」
「ここで真実をひとつ。ぼくは魔王なんですよ」
「だそうです、もふもふさん」
「触らない! 近づかない! 匂いを嗅がない!」
「ああー、没収されちゃった」
「ふわもふでも魔物は魔物。いいですか、勇者さん。きみに真実をお教えします」
「さっきも聞きましたよ。真実はいつもひとつじゃないんですか?」
「ふたつみっつある時もあります」
「ちょっと困っちゃうかも」
「人間が警戒心を緩め、つい守りたくなってしまう存在はなんでしょう」
「ふわもふ!」
「かつてなくいいお返事ですね。その通りです」
「合ってた」
「小さいもの、ふわふわしているもの、つぶらな瞳のもの。そういったものは庇護欲を駆り立てられ、人間が持つべき危機感すら麻痺させるおそろしい力を持っています」
「仰々しく言っていますが、この魔物は弱そうですよ。魔力も少ないです」
「生き残るためにふわもふしているのでしょう」
「えっ、かわいい」
「それです! そういう感情を人間に抱かせ、攻撃を回避させるのが狙いなんです!」
「でも、ほんとうに弱いし、ほんとうにかわいいです」
「人間がシャベルでも勝てるくらいの雑魚ですからね」
「放っておいても勝手に天に召されそうです」
「だからこそ、集団を作り、時には人間にすら助けを乞うのです」
「へえ、賢いじゃないですか」
「魔物のくせに生に執着するなんて」
「生きるものの性ってことですよ」
「勇者さんも見習ってほしいです」
「ふわもふは味わいたいですね」
「勇者さんのふわもふに対する執着もそれなりですけど」
「嫌いなひとがいるでしょうか。いや、いない」
「キメ顔で言われましても」
「弱いのならば、勇者として守るまで」
「子猫や子犬ならいいですが、相手は魔物です。心を鬼にして滅してください」
「難しいですね。九尾の狐ならなれるのですが」
「そっちの方が難しくないですか?」
「布団のシーツを丸めて並べると九本のしっぽみたいになりますよ」
「えっ、かわいい。なにその発想。天才。世界発明賞受賞」
「魔王さんの知能指数が低下している内にふわもふを……」
「そうくると思いまして、知能指数を事前に五百に上げておいたのです」
「知らない数値やめてください」
「おかげで下がっても三百はあります」
「さっきので二百も下がったんですか」
「ぼくだから耐えられましたけど、ぼくじゃなかったら耐えられなかったでしょう」
「どこかで聞いたセリフ回しもやめてください」
「こんな魔物にかまけている暇があるのなら、もっとやることがあるでしょう」
「はいはい、魔物退治ですね。わかっていますよ」
「ぼくを愛でてください」
「ちょっと耳鼻科で聴力検査してきますね」
「正常です。ぼくを愛でてください」
「毎度のことながら、どうしてくもりなきまなこで言えるのでしょうね」
「ぼくは自分の気持ちに素直であり、きみのことがびっぐらぶだからです」
「素直なのはよいことですね」
「そうでしょう。ほら、今日もきめ細かな白髪ですよ。艶々です」
「ふわふわしていない」
「それはほら、ほっぺがあります。ふわふわ、もちもち、ぷにぷにですよ」
「勇者に対しトンデモ発言を繰り返す魔王を目の前にし、魔物がドン引きしていますよ。見てください、見ちゃいけないものを見たような顔をしています」
「これがぼくの生き方なんです。何か文句があるなら発言を許可しますよ」
「生き残るためにそっぽ向きましたね」
「おや、賢いじゃないですか」
お読みいただきありがとうございました。
魔物も引くやばい魔王。
勇者「自分の気持ちに素直なところはすてきだと思いますよ」
魔王「えっ? 告白ですか?」
勇者「どの辺をそう解釈したのやら」
魔王「ありがとうございます。えっ? 褒めてない? あ、はい、すみません」