69.会話 風鈴の話
本日もこんばんは。
夜の時間に風鈴をひとつ、いかがですか?
「心地よい風に吹かれて昼寝をしている私の前でなにやらごそごそと活動するのやめてもらっていいですか」
「何を言っているんですか、勇者さん。ぼくは勇者さんの穏やかな睡眠をサポートするためにとっておきの物を準備したというのに!」
「勢いはありますが、一ミリも私を見ていませんよね。何をしているんですか?」
「壊さないように……壊さないように……。よし、できましたよ。これは風鈴です」
「火山?」
「そっちじゃなくて。夏の風物詩ともいえる細やかで透明な音色を響かせる風鈴! 美しい音が優しく鳴れば、うだるような暑さも涼しくなること間違いなしですよ!」
「魔王さんが暑苦しいです。ちょっと静かにしてください」
「勇者さんの態度は夏も凍える冷たさですね。ですが、風鈴の音は心地よいでしょう?」
「いいですね。これはかなり好きです。昼寝の邪魔にならない適度な音。風に吹かれてほどよく鳴る音の間隔。自然音とは違うリラックス効果があるようです」
「お、さすがですねぇ。風鈴の音には川のせせらぎと同じ効果があるんですよ」
「人工物もやればできるんですね。見直しました」
「目は開かなくていいですからお昼寝していてください」
「風鈴っておもしろい形をしているんですね。花の模様ですか」
「ひまわりですよ。夏といえば太陽のお花かと」
「視覚が暑い」
「そんな。というか、どういう意味ですか、それ?」
「黄色っていうのがどうも……。涼しさを求めるなら青とか緑の方がよくないですか?」
「青色の夏のお花ってなにかありましたっけ」
「花に限らずとも、波の模様でもよくわからん形でもいいんですよ。色の問題です」
「ぼくは気に入ってるんですけど」
「雫模様とかどうですか。雨を思わせて涼しくなりそうですよ」
「せっかく梅雨が明けたのに、また雨を思い出すなんていやですよう」
「だいじょうぶですよ。風鈴にも吊り下がっているものがありますし、雨は降りません」
「あれはてるてる坊主じゃなくて短冊です。風を受けて揺れるための重要な部分ですよ」
「あのひらひらしているだけの紙が重要……? なるほど、ガラス部分は本体をカモフラージュするための囮というわけですね。囮に気を取られ、本体は余裕綽々に敵を潰すことができると。なかなかやるじゃないですか」
「風鈴で物騒なことを考えないでください。それに、風鈴はきっとヒーラーですよ」
「ひとりじゃ戦えない弱そうな存在に見せかけ、実際は丸い形を利用し音を増幅、反響させ敵の精神を破壊する隠れアタッカーじゃないんですか?」
「勇者さんは風鈴をなんだと思っているんですか」
「すみません、暇なもので。でも、そういった能力を持つ敵っておもしろそうじゃないですか?」
「敵か味方かによりますね。いや、味方でもちょっといやかもです」
「きっと聖母のような優しい見た目をしていて、普段は過保護な仲間たちに守られながらいざという時は一番強くて厄介な攻撃をしてくるんですよ。自分の技の代償として、頭痛持ちとかどうでしょう。日頃から頭痛薬が手放せない風鈴さんは、ある時敵に薬を奪われ――」
「ちょ、ちょっと待ってください。なんですか? 仲間がほしいんですか?」
「言ったでしょう。暇だって」
「まさか風鈴も擬人化されて特殊能力を得るとは思ってないでしょうね。ほんと想像力豊かな勇者さんです。尊敬しますよ」
「きっと風鈴の音の効果ですよ。おかげで眠くなってきました」
「お昼寝の時間でしたもんね。寝ていいんですよ?」
「いえ……。私の顔面の上に吊り下げられると若干の懸念を抱かざるを得なくて……」
「な、なにか問題がありましたか……?」
「落ちてきたら顔面が死ぬ」
「だ、だいじょうぶですよ。しっかり結びましたから」
「そういう問題じゃない……。人には危機察知能力というものがありましてですね」
「ちゃんと結んであるのに危険なんですか?」
「言い方を変えましょうか。『かもしれない理論』です」
「えと……、じゃあ場所を変えますね」
「そうしてください。私は風鈴の攻撃でここを動けませんから」
「眠くて動きたくないんですね。風鈴を設置したのはぼくですし、移動させますよ」
「はあ……。安心快適心地よい……」
「なんだかぼくも眠たくなってきましたぁ~。勇者さん、一緒にお昼寝しませんか?」
「お好きにしてください。寝る場所はそこで」
「さりげなく風鈴の真下を指定するんですね。いいですけど」
「眠い……」
「勇者さん、風鈴をいっぱい飾ったら効果は倍増するんでしょうかねぇ。いろんな種類の風鈴がありますし、手作りもできるみたいですよ。今度やってみませんか。音色も違って楽しめそうですよ」
「うーん、やかましい……」
「えっ、風鈴の音うるさかったですか? 止めます?」
「いえ、魔王さんが」
「むぐぅっ」
お読みいただきありがとうございました。
風鈴さん、わりと気に入っています。
勇者「精神操作もできそうですよね」
魔王「物騒なこと言わないでくださいよう」
勇者「あなたはだんだん勇者に高級料理をおごりたくなーる……なーる……」
魔王「それはまた違うような……」




