689.会話 繋がっている空の話
本日もこんばんは。
サブタイはちょっとロマンチックですが、内容はいつもの。
「どんなに遠く離れていても、この空は繋がっている。そう思いませんか?」
「思います、勇者さん」
「だから安心して行ってきてください、魔王さん」
「無理です。いやです。勇者さんと離れたくないです」
「だいじょうぶです。空から見れば、離れた距離なんて小さなものですよ」
「そうは思えません。遠く遠く離ればなれなのです」
「つべこべ言わずにさっさと行ってきてください」
「あっ、優しくなくなった」
「いつまで駄々こねるんですか」
「だっていやですもん。魔界に仕事しに行くの」
「そんなだから、催促の手紙で宿を覆い尽くされることになったんですよ」
「魔界きらい! 行きたくない! お仕事いやです!」
「これが世界を恐怖に陥れる魔王の姿だと思うと……。はああぁぁ………………」
「勇者さんがばかでかため息を」
「呆れてものも言えません」
「だってぇ~……」
「この醜態をカメラで生配信し、偽聖女と信仰する人間どもに見せて失望の底に叩き落とし、『詐欺師』と石を投げられアホ毛を引き抜かれる魔王さんだと思うと、はぁ……」
「そこそこもの言うじゃないですか」
「繋がっている感をがんばって手繰り寄せてくださいね」
「というか、人間界と魔界の空は繋がっていませんけど」
「気持ちが大事なんですよ。ほら見て。今日もきれいな青い空」
「曇天ですね」
「どこまでも続く広さ。漂う柔らかな白い雲。羽ばたく鳥の影」
「雨が降ってきましたよ」
「何も心配いりません。穏やかな気持ちでいってらっしゃい」
「雷が落ちましたが」
「さあ、私が扉を開けてあげますから」
「大雨! 勇者さん、大雨!」
「すごくびしょぬれ」
「風邪をひかないように、タオルで拭いて服を着替えてください」
「自分でやるので、あなたは魔界に行ってください」
「この悪天候の中で行きたくないです」
「魔界は晴れかもしれないでしょう」
「魔界がいい天気というのも気味わるいですけどね」
「わがままですね。じゃあ、どうすればいいんですか」
「ぼくは魔界に行きたくないんです。治安も空気も人相も運勢も悪いんですよ!」
「今日の朝の占いですか?」
「『遠方の外出に気をつけろ』って言ってました」
「魔王さんは星座とか関係ないでしょう」
「気持ちの問題です。別の言い方をすると、占いにかこつけて行かない作戦です」
「いっそのこと、魔王らしく魔界も壊しちゃえばいいのでは?」
「そういうわけにもいかなくて……」
「何か深い事情が?」
「いえ、単純に神様から『だめだよ』って言われているだけです」
「浅い事情でしたね」
「ぼくとしても、魔界に何かして人間界に影響があったらいやなので」
「ずっと私の脳内で『魔王だよな?』という疑問が渦巻いています」
「魔王ですよ。魔界のバランスを保つために、定期的に視察に行っていますから」
「今回はなんで渋っているのですか」
「聞いてくれますか? 実は、『魔界と人間界の空を繋げて八時間耐久空中飛行レースを開催しましょう』という企画の許可申請が来ていまして」
「なんですかそれ、信じられません」
「でしょう? ぼく、最初から無視しているのですが、なかなか諦めてくれなくて」
「そんな企画を通すわけにはいきません」
「お任せください。魔王として絶対に阻止しますから」
「八時間なんて生ぬるい。二十四時間耐久に変更してください」
「がんばりま――勇者さん?」
「脱落者は空から落ちていくデスレース。生き残るのは何人だ」
「勇者さん、ちょっと待ってください」
「魔界と人間界の空すべてを繋げて完走チャレンジもいいですね」
「一番反対すべき人が企画にのめり込んでどうするんですか」
「人間は地上からロケットランチャーを放つ妨害役。一匹落とすと金貨一枚」
「あ、ぼくそれで参加したいです」
「題して、全人類参加型大規模長距離耐久選手権妖怪大戦争!」
「目がちかちかします」
「大会キャッチコピーは『この空の先で待ってる』」
「誰が待っているのですか?」
「ゴールテープを切る英雄に贈る、祝福のロケットランチャー」
「ぼくにやらせてください」
お読みいただきありがとうございました。
耐久レースはよく眠れるのでおすすめです。
勇者「では、私は実況をしますね」
魔王「珍しいじゃないですか」
勇者「おっ、なんかすごいですよ。今のなんだろう。よくわからないけど、誰かが一位に躍り出ました」
魔王「なんの情報もない」