686.会話 ケンカの話
本日もこんばんは。
くだらない会話をするほど仲が良い。
かもしれない。
「勇者さん、ぼくとケンカしませんか?」
「珍しいですね。あなたからケンカを売ってくるなんて」
「『ケンカするほど仲がいい』というでしょう? ぼくたちの仲良し具合は全世界が知るすてきな事実ですが、もっと深めたいと欲が出てしまいまして」
「息をするように嘘が紛れ込んでいたような」
「このたび魔王、勇者さんとケンカしようと思います!」
「金貨一枚で買ってあげてもいいですよ」
「そういう買い方で合ってましたっけ」
「たんまり持っているんでしょう? ほら、飛んでみてくださいよ」
「不良の真似が上手すぎる」
「聴こえてきますね。ちょりんぺりんそらんと……」
「えっ、ぼくの知らない擬音」
「出てくる出てくる、金貨の欠片」
「割れちゃってますよ」
「つなぎ合わせれば金貨ですよ。ほら、ジグソーパズル」
「ぼくの苦手なものですね」
「魔王のくせに何言ってんですか。もっと気合とか根性とか薬物とか入れてください」
「アウトなもの混ざってましたよ」
「不良の真似です」
「もっとかわいいものがいいです」
「かわいいケンカってなんですか?」
「勇者さんってなんでそんなにきゅーとなんですか? ぼくをどうしたいんですか!」
「何を言っているのかわからない」
「意味不明というお顔も罪深い! ぼくの心勇者さん知らず!」
「このひとは何がしたいんだろう」
「やーいやーい、勇者さんのうるとら美少女ー!」
「楽しそうなので放っておこう」
「ケンカしましょうってば。ひとりでしゃべってもケンカになりません」
「魔王さんはひとりでも楽しそうですよ」
「長らくおんりーみーでしたからね」
「ああ、ぼっち経験豊富」
「言葉にされるとさみしいですね。事実という現実が余計に胸にきます」
「かわいそうなので右フックでもしましょうか?」
「この流れで殴られるんですか」
「だってケンカしたいって言うから」
「せめてデコピンとかにしてほしいです」
「やるなら本気でいきましょうよ。火花とか血飛沫とかあげて」
「物騒なものは却下です」
「私たちが出会った時を思い出してください」
「魔王城の話ですね。よく覚えていますよ」
「激しいケンカをしましたね」
「あれ、殺し合い……」
「熱くなるケンカでしたね」
「いや、だからあれは殺し合い……」
「生きる喜びを感じる凄まじいケンカでしたね、魔王さん」
「えっ、きみ死にたがってた……」
「なにか?」
「いや、あの、えっと、ぼくの知るケンカと違うのであの、その」
「魔王さんはケンカの何を知っているというのでしょうか」
「哲学が始まった」
「ケンカとはそう、命を懸けた究極のバトル」
「違うと思います」
「負けた人は命とお金を相手に渡すルールです」
「せめてお金だけにしませんか」
「ケンカ後は、お互いに功績を称え合い、握手を交わして絆を結ぶのです」
「さっき命渡してませんでしたっけ」
「死んだなんて言っていません」
「えっ? どういうことですか」
「白線から落ちたらサメに食べられて死んじゃう原理と同じです」
「実際には無事ということですね。安心しました」
「特例もあります。魔王さんです」
「一瞬で風向きが」
「魔王さんがケンカで負けると首を差し出すことになります」
「むしろいつものやつ」
「全財産と魔王城と土地所有権と銀行口座と金庫番号も差し出します」
「ぼくは勇者さんさえいればいいですのでっ」
「私もいなくなります」
「なにゆえ⁉」
「ケンカして仲が悪くなってさようなら」
「本末転倒なのですが」
お読みいただきありがとうございました。
ふたりがしっかりケンカするのも見てみたいですね。
勇者「本音をさらけ出すとケンカになると聞いたことがあります」
魔王「ぼく、本音でしかしゃべっていませんよ」
勇者「奇遇ですね。私もです」
魔王「じゃあ無理だ」