683.会話 終わらない夏の話
本日もこんばんは。
サブタイはちょっとロマンチック。内容はお察し。
「なんとなく存在するイメージってありますよね。例えば、八月最後の日。なんだか、夏の終わりを感じて少しだけさみしくなりませんか?」
「え、別に何も」
「あ、はい。続けますね。今日は八月最後の日。もう夏も終わりですね、勇者さん」
「終わってください」
「どうしました? お顔がこわいですよ」
「終わってください、夏。終われ。はやく終われ。お願いだから終われ」
「まるで呪いの言葉のようです。どうしちゃったんですか、勇者さん」
「暑すぎるんですよ」
「夏ですからね」
「違います。これはもう夏ではありません。シン・夏と言うべきでしょう」
「劇場版みたいに言わなくても」
「だって、おかしくないですか? なんですかこの気温。なんですか?」
「勇者さんの圧が」
「もう命に関わるレベルです。死んじゃいますよ」
「人間は儚いですからね」
「儚くなくてもやられる暑さです。生き残れるのは魔王さんくらいですよ」
「やだなぁ、勇者さん。ぼくだってもうおえおぁっぇああぉえあつすぎるぁあぁぁ」
「あ、死にそう」
「なんですかこの暑さどうかしています生きてるだけで精一杯他の何もできません」
「魔王なのに」
「ぼくが好きなのはほど良い暑さで楽しむことができる夏なのです」
「諦めてください」
「勇者さんとキャッキャウフフする夏の計画がぁぁぁ」
「私の知らない物語ですね」
「こうなったら、最適な夏をぼくが作るしか……」
「この後は秋です」
「まだ夏です。いえ、これからが夏なのです」
「勘弁してください。私は猛暑に別れを告げたのです」
「待ってください。ぼくはやれます。だって魔王だから!」
「あなたが夏に残るなら、私は魔王さんにも別れを告げますよ」
「そんな、勇者さん。ぼくを置いて秋に行くというのですか」
「私は行きます。そう、九月に」
「いいでしょう。ならば、ぼくにも考えがあります。よく聞いてください、勇者さん」
「片耳だけ傾けてあげます」
「九月は秋じゃなくて夏ですよ」
「やめてください。やめてください。やめてくださいまじで」
「まだ普通に暑いです。余裕で猛暑です。全然秋じゃないです」
「なぜですか。八月は夏の終わりみたいな顔しているくせに」
「顔だけですね」
「ああ、魔王さんみたいな感じですか」
「そうですそうです、顔だけ聖女みたいな……って、こら、勇者さん」
「だって事実じゃないですか。魔王さんも八月も詐欺罪ですよ」
「おっ、かつてなく悪そうですね!」
「なんでうれしそうなんですか」
「すみません、いつも罪なき白き存在すぎて」
「詐欺師はみんないい人そうに見えるとか」
「あらあら、誰のことですか?」
「魔王さんのことです」
「ですが、勇者さん。八月は優しそうな顔をしていなそうですよ」
「ぐわっとした顔していそうです。鬼みたいな」
「さっき勇者さんがしていた顔みたいな?」
「そうそう、おそろしい圧を感じる……って、やかましいですよ、魔王さん」
「夏に怒る勇者さんのお顔、魔物が消し飛ぶ勢いがありましたよ」
「ほんとですか? それは便利かもしれません」
「秋になると消える能力ですね」
「困りました。ずっと使いたいのですが」
「であれば、永遠に夏でなければいけませんが」
「あ、結構です」
「ですよね。言うと思いました」
「できれば夏は二週間くらいでお願いします」
「短いですね。もっと夏を楽しみましょうよ」
「魔王さんは元気ですね。私はもう無理です。なんか疲れちゃいました」
「暑さは体力を消耗させます。水分補給して休みましょう」
「はー、やれやれ。どっこいどっこいよっこらしょい」
「勇者さんが独特な掛け声を出している」
「夏って大変です。いずれ終わる季節だからがんばれますけど」
「そんな勇者さんに豆知識を一つ。永遠に夏が続く国があるのですが、行ってみま――」
「だいじょうぶです。結構です。遠慮します。嫌です。拒否します。絶対に行きません」
「必死の拒絶じゃないですか」
お読みいただきありがとうございました。
アキ……ハヤク……ハヤクキテ……アキ……。
魔王「暑いということは、布面積の少ない服や薄い服を着るということです」
勇者「だからなんですか」
魔王「夏服をまとう勇者さんを堪能し――いや布面積は広くないと許せません!」
勇者「いそがしいひとだなぁ」