682.会話 冒険家の話
本日もこんばんは。
冒険したい時はとりあえず映画をぽち。
「世界のあらゆる場所を訪れ、時に秘宝を求め、時に己の目的のために、時にまだ見ぬロマンを追い、危険の中に自ら飛び込む者たち。それが冒険家です」
「お友達にはなりたくないタイプです」
「何を言っていますか、勇者さん。旅人もまた、ある意味では冒険家ですよ」
「ただとりあえずその辺の道を歩いているだけなのに」
「目的だけがみちしるべの、目的地のない放浪の旅。まさにロマンじゃないですか」
「私はマロンの方がいいです」
「なんかいい感じの木の棒を探している勇者さんって幻覚なのでしょうか」
「伝説の枝はエクスカリバーみたいなものですから」
「あまりよく考えてしゃべっていませんよね?」
「最近はいい感じの枝に出会えていません」
「ぼくが焚き火にしていますからね」
「おのれ魔王。滅してくれる」
「魔王討伐のために世界を旅する勇者も冒険家だと思いませんか?」
「今日はやけに冒険家を推すじゃないですか」
「響きがかっこいいので」
「魔王さんの肩書にしたらどうです」
「『冒険家・魔王』ですか。いい感じです!」
「いまいちパッとしませんね」
「勇者さんのばっさり言うところ、ぼくは気に入っています」
「なんか弱そう」
「言葉を付け足しましょうか」
「見た目も山を舐めている格好ですし」
「見た目にケチつけ始めた」
「装備も貧弱ですよね。ロマンを追い求めようという気概を感じません」
「辛口評論家?」
「一度、崖から足を滑らせればいいんですよ」
「純粋な呪いの言葉」
「頭とか足とか肘とか胸とか耳とかそことかあれとかこことかを打てばいいんです」
「それはもう全身ですね」
「右手の人差し指だけ無事」
「スイッチだけ押させてくれる優しさ」
「包帯でぐるぐる巻きの魔王さんが藪から飛び出してくるんです」
「また新種の妖怪が生まれてしまった」
「せっかくなので『やー!』とか言ってくださいね」
「鳴き声ですか?」
「魔王さんではなく、『冒険家・魔王』の鳴き声です」
「あ、それ別種なんですね」
「レアリティもありますよ。魔王さんはノーマルです」
「ぼく、魔王なのに」
「『冒険家・魔王』がレア、『登頂した冒険家・魔王』が超レア」
「てっぺんに登れたのですね。うれしいです」
「最高レアリティである超激レアは『滑落して大泣きする魔王』です」
「落ちちゃった」
「超激レアの鳴き声だけ特別製なんです」
「まともな予感はしませんが、聞きましょう」
「『たすけて』」
「紛れもなく救助要請」
「若干の涙声」
「なんで妙にリアリティがあるのですか?」
「私も旅人して世界を巡ってきましたからね」
「経験談だと」
「はい。以前、転んだ先で足を攣り、震えながら助けを呼んだ魔王さんの経験談です」
「あの時はまじで冷や汗が止まりませんでした」
「勇者に助けを乞う魔王のおかしなこと」
「ですが、勇者さんは助けてくださいました。せんきゅー、慈悲の女神様!」
「人通りがありましたからね」
「助けないといけない空気でしたもんね」
「やれやれです。魔王さんならひとりで解決できたでしょうに」
「それがですね、一度攣ると繰り返すんですよ」
「真顔で言わないでください。魔王でしょう」
「最近、足腰に不安が増えてきまして」
「もう諦めた方がいいですよ」
「ぼくはまだまだ現役です。がんばれます。勇者さんとの旅のため!」
「自分の能力を過信したご老人が救助隊のお世話になる光景を何度か見ました」
「今日もこの後、自主練をしよ――うっ⁉ ひ、膝が!」
「ほら。無理しちゃだめですよ。冒険家の夢は来世にしましょうね、おばあちゃん」
「ぐすん、そうします。……って、ぼくに来世はありませんよ」
「じゃあ、諦めましょう」
「のーせんきゅー、無慈悲の女神様」
お読みいただきありがとうございました。
やりたいことはできるうちにやった方がいいです。足腰は待ってくれない。
勇者「魔王なのに膝や腰が高齢者なんですか?」
魔王「ぼくほどになると、痛みすら愛おしいのですよ」
勇者「よぼよぼしている姿はちょっとおもしろいですけど」
魔王「うふふ、人間びっぐらぶ。でもちょっと手を貸してほしい」