681.会話 飲酒の話
本日もこんばんは。
飲酒の話ですが、飲んではいません。
「魔王さんってお酒を嗜む趣味はあるのですか?」
「たまーに飲みますよ」
「ミティアさんのお店で飲んでいたものはお酒ですか」
「はい。ロックでいただきました」
「ロックってなんですか?」
「氷を入れたグラスにお酒を入れて飲むことです。度数のお酒であれば、水と溶けあうことで飲みやすくなりますが、音や色を楽しむ効果もありますよ」
「ああ、あのカランという音ですか。きれいな音でしたね」
「勇者さんは音を楽しむだけにしてくださいね」
「私はお酒飲みませんから」
「国や地域によっては、勇者さんの年齢でもオーケーなところもあるにはありますが」
「飲酒の予定はありませんよ」
「ぼくとしても、きみがお酒を飲んでいる姿が想像できません」
「アルコール消毒にはよくお世話になっています」
「ほんとですよ。気をつけてくださいね」
「それを言うなら魔王さんも。アルコール依存症というこわいものがあると聞きました」
「ぼくは一応、魔王なので」
「お酒には強いということですか?」
「あ、えへ。そうですね。そこそこ、えへ、はい」
「なんで照れているんですか」
「また一つ、ぼくの魅力が勇者さんに知られると思ったら、うれしくて」
「どの辺が魅力なんですか?」
「くもりなきまなこ」
「お酒が強いとすごいんですか?」
「あ、いや、別に、なんというか、儚げ美少女で酒豪ってギャップかなって、その」
「よくわかりません」
「ほんとうによくわからないという顔をしている」
「お酒が弱いことは悪いことなんですか?」
「まさか。どちらが秀でているなんてことはありません。適度に楽しくが一番です」
「でも、魔王さんは自分の酒豪をまるですばらしいことのように」
「すみません、欲が出ました」
「そもそも、魔王である魔王さんがお酒に強くても『そうですか』としか思いません」
「では、弱かったらどう思いますか?」
「『えっ、雑魚。ものすごく拍子抜け。魔王のくせにアルコールに負けるとか。わら』」
「ギャルみたいな罵倒」
「まじうける」
「真顔で言われるとダメージ増加しますね」
「お酒で失敗する魔王さんとか……、意外とイメージ通りかもしれない」
「おや、新展開」
「べろべろになって過去の黒歴史を号泣しながら暴露する魔王さんの姿が見えた」
「ぼくのことなんだと思って」
「泣いたり怒ったり笑ったり情緒がおかしくなっていそう」
「それは割と普段から」
「気分がよくなって他の人のお会計まで済ませるタイプ」
「お金ならいくらでもあります」
「そういえば、聖職者は飲酒オーケーなんですか?」
「ぼくの知る限り、時代や場所によって様々ですね。禁忌としているところもあれば、お祭りではパーッと飲むところもあります。ちなみに、神様はお酒好きですよ」
「あれはもう神様として認識したくないです」
「一説には、魔力が多い人はアルコールにも強いとかなんとか」
「その説が正しければ、私はアルコールに弱いことになります」
「見た目的には涼しい顔で樽を空けていそうなんですけどね」
「どんなイメージ」
「とはいえ、お酒に弱くてへにゃへにゃになった勇者さんを介抱したいので」
「欲望丸出し」
「勇者さんは下戸説を推していきたいと思います」
「ご勝手にどうぞ」
「ぼくのことも介抱してくださっていいのですよ?」
「それ目当ての飲酒はやめてくださいね」
「冷たいお水を手渡しながら呆れたようにため息をつく勇者さん。しかし、ぼくが二日酔いで苦しんでいる姿を見て、ふいに伸ばした手は優しく頭を撫でるのだった……」
「よく回る脳みそだことで」
「これだ。これです。よし、たらふくお酒を飲んで勇者さんとの介抱シチュを!」
「でもさっき、自分でお酒は強いって」
「え? 聞き間違いじゃないですか?」
「……お酒が強いひとってすてきだなぁ」
「あ、はーい! ぼく! ぼく、お酒に強いでーす!」
「では、介抱シチュエーションはなしで」
「あっ」
「お酒絡みで失敗しましたね、魔王さん」
お読みいただきありがとうございました。
そもそも魔王さんは魔王なのでお酒に酔う機能がありませんが、彼女は人間に合わせている定期。
勇者「でも、魔王さんがお酒を飲んでいる姿は滅多に見ませんね」
魔王「誤って勇者さんが飲んでしまうと大変ですから」
勇者「また私のことを赤子だと思っていますね」
魔王「はちみつも気をつけないと」