680.会話 貿易船の話
本日もこんばんは。
船は乗るより観る派の天目です。
「魔王さん、見てください。大きな船がありますよ」
「貿易船ですね。遠い地からいろんな物を持って来たのでしょう」
「人間とか?」
「わあ、犯罪ですね」
「私は一銭にもならないでしょうけど」
「ところがどっこい。世の中には赤目の人間を超高額で買……ごほん! 何の話ですか。貿易船ですよ。今日は闇深話デーではありませんよ、勇者さん」
「何が積まれているのでしょうか」
「香辛料、食材に衣料品、嗜好品も多いでしょうね。装飾品や宝石をはじめ、動物や植物を輸送することもあります。実に多種多様なものが船に乗っているのですよ」
「魔王さんも乗せてもらえばいいじゃないですか」
「船旅なら別の船がありますよ」
「いえ、超レアキャラとして闇オークションに売られる魔王ってことで」
「勇者さんが買ってくれるんですよね、ぼく知っています」
「え? いらないですよ」
「うそでも買ってください」
「じゃあ、このおもちゃのお金で」
「こ、これは! 桁がおかしくなっているこども用のお金!」
「紙っぺら一枚で一無量大数の価値があるそうです」
「こども特有のとんでも金額ですね」
「魔王さんにそこまでの価値はないので使いません」
「プライスレスってことですか? 勇者さんったらぁ!」
「せいぜい千円ですね」
「ぼく、安いなぁ」
「その辺の定食の方が高いですね」
「ぼくはお腹にたまらないってことですか?」
「だって食べられないし……。髪の毛とか口の中に残りそうで嫌だ」
「すみません、努力はしますので」
「何かおいしいものないかな。貿易船の近くに行ってみましょう」
「ぼくに見向きもしなかった。ぐすん、これが現実」
「人がうじゃうじゃですね。物陰から様子を見ます」
「怪しい人ですね」
「なに言ってんですか。怪しいのはこれからですよ」
「何をする気ですか? 全然わくわくしない物言いなのですが」
「珍しそうなものを見つけたら魔王さんのポケットマネーで買い叩くのです」
「それは難しいでしょう。なにせ、積み荷はこの地において価値があるものばかり。彼らは高値で売りこそすれ、わざわざ値切ることはしませんよ」
「言ったでしょう。買い叩く、と」
「勇者さん、とても勇者の顔とは思えないのですが」
「ふふふ、商人の秘密を握って揺らすのです。バラされたくなければ……とね」
「勇者さん、商人に大事なものでも奪われたんですか?」
「おかしなことを訊きますね。私に大事なものなどありませんよ」
「ミソラさんとか」
「その場合は魔王さんと引き換えに取り戻します」
「何の躊躇いもなく言いましたね」
「足りなければ魔王城も追加で」
「一応、ぼくの家なんですけどね」
「住んでいないじゃないですか」
「家は居場所とイコールではありません。ぼくがいるべき場所、それはきみの隣」
「なにやら高価そうな箱が出てきましたよ。きっとお宝に違いありません」
「ぼくの声って風みたいなものなのかな?」
「宝石がわんさか入っているのでしょう。一つくらいなくなっても気づきませんよ」
「さすがに気づきますよ。ああいうのは全て管理されていますから」
「魔王さんのおかしな言動も管理されればいいのに」
「毎日定刻になったら勇者さんの愛を叫ぶってことですか?」
「なんか目覚まし時計みたいですね」
「毎朝十時に『びっぐらぶ!』と言いますので、幸せな気持ちで起きてくださいね」
「その時間はもう起きています」
「では、この土地では珍しいすぺしゃるな料理を作りますので」
「旅人なのでいつか貿易船が来た土地にも行くんじゃないですかね」
「宝石もプレゼントしますよ」
「実はそんなにいらない」
「すてきな服とか装飾品は?」
「私には似合わないでしょうから結構です」
「満開の花は?」
「遠くから眺めるくらいがちょうどいいです」
「世にも珍しい動物は?」
「それもだいじょうぶです」
「見たこともない動物にもご興味がないのですか?」
「世界で一番珍しいひとが隣にいるせいでね」
お読みいただきありがとうございました。
ぎり珍獣でも通用しそうな魔王さん。
勇者「なんかよくわからん存在として研究所に売り込みましょうか」
魔王「そこにいる人々も救っちゃいますよ」
勇者「ガラス越しに見学される魔王さん」
魔王「動物園ですか?」