676.会話 鳩の話
本日もこんばんは。
ほー、ほっほー、ほー、ほっほー。
「勇者さん、鳩をご存知でしょうか」
「もちろん知っています。三回まわってポッポーですよね」
「それは犬ですね。愉快な鳴き声の勇者さんも超絶きゅーとです動画撮っていいですか」
「鳩がどうしました?」
「この見事なスルースキル。魔王でなければ見逃すところでした」
「よくその辺にいますよ。焼き鳥にしたいと常日頃から思っています」
「やめて差し上げてください。鳩といえばそう、平和の象徴なのですよ!」
「ふうん」
「興味なさそうですが、ぼくは気にせず続けます。鳩が象徴とされる理由はいくつか考えられるそうですが、それは一旦置いておいて」
「おや、違うのですか」
「今日はですね、ぼくが平和の象徴になりたいという話です」
「勝手にしてください」
「考えてみてください。鳩というだけで平和を想像するのです。それがぼくだったら?」
「魔王さんだなぁと思います」
「この聖なる見た目をもってすれば、ぼくは平和と安寧と幸福と愛の象徴になれます」
「なんか増えてる」
「お望みならば、鳩の羽もつけます」
「オプションみたいに言わないでください」
「だって、このぼくに羽がついた姿を想像してくださいよ。超神聖じゃないですか?」
「神聖に『超』とかつけないでほしい」
「でもほら、世間的には美少女に羽が生えているとさらにお得だっていいますし」
「聞いたことない……」
「勇者さんも鳥さん好きじゃないですか」
「まあ……。羽で思いましたが、たしかに白い羽は神聖さを感じさせますね」
「鳩も白いですから、余計にそちら側を思わせるのかもしれません」
「天使が白だから、そのイメージがついているのかも」
「そしてぼくも真っ白。そう、まさしくラブアンドピースなのです」
「ここぞとばかりにピースサインするな」
「どうですか? ぼくのピースサインで心が平和になっちゃいますか?」
「一切何も思いません」
「せめて表情筋を動かしてください」
「魔王さんのピースサインとかどうでもいいです」
「そんな。では、こちらの鳩も一緒につけたら?」
「わぁい。鳩だ。三回まわってクルッポーって鳴くかな」
「ぼくに見向きもせずに鳩の方へ……」
「ひとつよろしいでしょうか」
「はいはい、いくらでもどうぞですよ」
「鳩って別に白くないですよね」
「ああ~……。白い鳩もいますけどねぇ」
「この子を見てください。めちゃくちゃ灰色。茶色もあります」
「一言で鳩といっても、色んな種類や色がいますからね」
「そうなると、平和の象徴という強力な立場を獲得している白鳩は、鳩界のヒエラルキー、そう、ハトラルキーにおいては頂点に君臨しているのでしょう」
「大真面目な顔でなんて言いました? ハトラルキー?」
「灰色や茶色は一般社員なんです」
「白色はなんですか?」
「取締役社長」
「鳩が経営する会社ですか。勇者さんは考えるのが得意そうな分野ですね」
「株式会社はとぽっぽ」
「あ、かわいい。ちょっとかわいいかもしれません」
「世界の平和と安寧を目指し、日々空を駆け回る」
「すてきじゃないですか」
「運送会社です」
「いつもお疲れさまです。時間指定なしの置き配でだいじょうぶですので」
「頼んだ荷物がちゃんと届く。ひとつの平和の形といえるでしょう」
「勇者さんは買い物に行くのもめんどうですもんね」
「外に出たくないです」
「便利な時代になりましたよ。家にいながら欲しいものが手に入るのですから」
「昔はどうしていたんですか」
「川や野に自ら入って狩りをしていました」
「そこまで昔のことは聞いていません」
「今でも狩りの文化は残っていますよ? 狩猟だって大事な生き方のひとつですし」
「近くに店がない時は、魔王さんが捕ってきてくれますね」
「今日もご用意しました。そろそろ食べごろですよ」
「お肉ですね。鹿とかイノシシとかですか」
「いえ、鳩です」
「ちなみに色は?」
「真っ白でした」
「また一歩、平和な世界から遠ざかりましたね」
お読みいただきありがとうございました。
最初に『はとぽっぽ』と言った人はどういう人だったのかと思う日があったりなかったり。
勇者「世界ではびっくりするものを食べる文化もありますよね」
魔王「その土地では食材で、別の場所ではそうではない、というものですね」
勇者「鳩も食べるなんてびっくりです」
魔王「その辺の雑草を食べる人に言われたくないです」