674.会話 火の玉の話
本日もこんばんは。
今日も今日とて夏がファイヤー。
「死んだ人間の魂が火の玉になって現れる……というのは嘘ですよね」
「どうしてそう思うのですか?」
「どう考えても魔法じゃないですか」
「幽霊ではなく生きている者による仕業だと」
「そもそも、魂が燃えている原理もわかりません」
「命のともしびという表現があるくらいですし、燃えているのでは?」
「水をかけたら消えちゃいますよ」
「実際の炎とは違う火なんですよ、きっと」
「ていうか、死んだなら燃えていないんじゃないんですか?」
「それはほら、最後の光みたいな感じですよ」
「ライターを隠し持っている説はありますか」
「雰囲気的にはロウソクの方がいいですね」
「たいまつはどうでしょう」
「結構明るいですね」
「ガソリン被って着火」
「ダイナミックセルフ火葬してます?」
「火の玉の正体を探るためには身を粉にする必要がありますからね」
「勇者さんの場合は骨すら残っていませんよ」
「地に還っちゃったか~」
「腕組み勇者さん」
「私のあとから若葉が芽吹き、花が咲き、虫が蜜を吸い、枯れ地が命を宿す」
「勇者さんの生命力が大地に吹きこまれるのですね」
「と思わせてすべてを無に帰す荒れ地にするのが、そう、私の力」
「倒した後も厄介なラスボスですか」
「永遠に消えない炎が大地を満たすのです」
「勇者さんにそんな力があったなんて!」
「え? ないですよ」
「また騙されちゃった」
「私は命のともしびを灯すのもめんどうなのに」
「それはがんばって燃やしてほしいというか」
「水をかけたら消えますよ」
「儚すぎるでしょう」
「私が死んだら、そのともしびは線香花火のごとく小さく短いものになるでしょう」
「切ないですが、命が線香花火はすてきな表現かもしれません」
「死んだらお線香を焚きますもんね」
「遠い国の文化ですね。勇者さんがお望みなら毎日欠かしませんよ」
「毎回五百本くらい一気に燃やしてください」
「趣も何もない」
「業火のお参り」
「違う場面で出会っていたら、ぼくたちはどうなっていたのでしょうね」
「魔王と勇者ですよ。今と変わらない日々になっていたはずです」
「え、ええ~。そんな、ええ~。えへへへへ、ええ~、えへえへ」
「やかましいな」
「どこで出会っても、いつ出会っても、手を取り合ったということですね!」
「殺し合いの間違いでは」
「ぼくは忘れていませんよ。あの日、あの時、きみと手を結んだことを」
「火花を散らして戦いましたね」
「そうでしたっけ?」
「なんで戦闘の記憶はないんですか」
「他のことばかり考えていたものでして」
「私は真面目に戦っていたのに」
「えー、ほんとですか? 死ぬことばかり考えていたように思いましたが」
「…………」
「なんでそっぽ向くんですか? こっち向いてくださいよう」
「向きません。嫌です。見ないでください。魔王さんには関係ありません」
「ぼくが一番関係しているような」
「あんまり近づくと火だるまにしますよ」
「そんなことしなくても、ぼくはいつでも勇者さんの愛で熱々ですよ」
「見た感じは普通ですが」
「心を燃やしているのです」
「それなら魔王としての責務を全うしてください」
「わかりました。勇者さんを愛する。お任せください」
「いや、魔王として悪事をですね」
「勇者さんを愛し、守り、そばにいるのがぼくの使命ですよ?」
「もっとこう、町を壊したり山を燃やしたりとか」
「そんなことできませんよう」
「せめてそれっぽい火の玉を出すとか」
「ぼくの命のともしびが見たいようですね。よくご覧ください。超超超愛塊炎魂――」
「それは結構です」
「最後まで言わせてもらったことがない」
お読みいただきありがとうございました。
以前、お盆の時期に火の玉を見たのですが、いま思えば熱中症だったかもしれません。ファイヤー。
魔王「火の魔法は色々ありますから、火の玉を出現させる魔法もあるかもしれませんね」
勇者「魔王さんだけ燃やす魔法とか?」
魔王「もちろんありますよ」
勇者「あるんだ」