672.会話 名称変更の話
本日もこんばんは。
今日も元気そうな魔王さん。
「勇者さん、今日からぼくは自分の名前を変えようと思います」
「ついに『一応魔王だけど見た目は聖女中身は勇者の超絶変人』になる決意が?」
「いえ、そうではなく。ぼくは勇者さんが大好きですね」
「はあ」
「どうでもよさそうな反応。だが、それがよし」
「はやくしてください」
「すみません。ぼくは勇者さんが大好きで、自分を過激派だと思っています」
「客観的視点を持てるのはよいことです」
「しかし、ぼくは思いました。『過激派』って言葉、あまりよくないかも……と」
「そうですか」
「ですので、名称を変えようと。最初、勇者さん強火担にしようと思ったのですが」
「強火担? 初めて聞く言葉です」
「主にアイドルを推す時に使うらしいですよ」
「私はアイドルではありません」
「それは承知ですが、勇者さんの超ぷりちーできゅーとで愛らしいすべてははアイドルに負けませんからぁ! からぁ……! らぁ……!」
「セルフエコーするな」
「ですので、ここからさらに言葉を少し変えようかと」
「過激派、強火担、次は?」
「よくぞ聞いてくれました。ぼくの新たなる名称、『フランベ』です」
「それって料理で使う手法では」
「過激的であり、強火を思わせる言葉を探したらフランベを思いついたのです」
「たしかに、見た目も盛り上がっていますもんね」
「熱い気持ちがファイヤー! って感じで」
「言いたいことはわかりました」
「しかも、前よりオシャレじゃないですか?」
「調理法なのか魔王さんなのか、判別がつきにくい難点がありますけど」
「では、『フランベ担当』はいかがでしょう」
「キッチンの配属先?」
「『フランベ派』もいいですね」
「特に意味もなく最後にフランベするタイプのひと?」
「わかりやすく『勇者さんフランベ』でも」
「私がファイヤーされちゃった」
「どうしましょう。これぞというものが思いつきません」
「好きに呼べばいいと思いますけどね」
「ぼくとしては、特定の言葉が特定の人物を表す愉悦感を味わいたいのです」
「いまいちよくわかりません」
「では、『勇者さん過激派同担拒否魔女』と聞いて、誰を思い浮かべますか?」
「アナスタシア」
「ぼくもそういうのがほしいのです。ぼくだけを表す勇者さん関係の言葉が」
「めんどくさい魔王さんですね」
「勇者さん関連で妥協はしません」
「『勇者専属フランベ担当』はどうですか」
「おお、いい感じですね! 専属という言葉が特別感を際立たせます」
「特別感がほしいのですか」
「そりゃあ、ぼくが一番、勇者さんのこと大好きですから」
「ふうん」
「すごい。全然響いていない」
「過激派がよくないと思うのなら、もっと柔らかい感じにしたらどうですか」
「勇者さん大好きっ子クラブとか?」
「いいですね。程よく幼稚ですし、魔王さんにぴったりです」
「あんまり褒められている気がしませんが、ありがとうございます」
「魔王さんにはのほほんとした方がお似合いです」
「勇者さんの一挙手一投足を見守り隊」
「ちょっとポリスメンの気配がします」
「はあ~……、勇者さんまじびっぐらぶ。まじびっぐばん……」
「ビッグバン? なんですかそれ」
「高温高密度状態から大きく膨張し、低温低密度になったとするビッグバン理論における宇宙が開始した時の爆発的膨張のことです。つまり、ぼくの勇者さんへの愛を表します」
「全然理解できなかった」
「理解してみようとしてくれたことが、もう、愛」
「今日もお元気そうですね」
「毎日毎分毎秒ごとにきみへの愛が膨らみ、いつか宇宙を生むでしょう」
「そうですか」
「閃きました。ぼくの新名称は『勇者さんびっぐばん』です」
「ちなみに、膨張した後はどうなるんですか?」
「大爆発です」
「……ふふっ。なんというか、魔王さんっぽくていいと思いますよ」
「今もどこかで宇宙が生まれる音がしました」
「えっ、なんで?」
お読みいただきありがとうございました。
サイレント修正しようと思ったのですが、せっかくなのと、めんどうなのでSSにしました。
今後はびっぐばん魔王さんをよろしくお願いします。
魔王「アナスタシアさんはとりあえず、『強火派同担拒否』と呼ぼうかと」
勇者「いつか彼女の名称についても考えたいですね」
魔王「ぼくはびっぐばんで対抗します」
勇者「ひらがななのが弱そうなんだよな」