667.会話 ひまわりの話
本日もこんばんは。
ひまわりの話なので、爽やかで明るくてすてきなSSにしたかったです。過去形。
「ひまわりの花は太陽の方向に向かって咲くそうですよ。すてきですね、勇者さん」
「私は太陽から隠れて生きていきたいです」
「花すら枯れそうな雰囲気」
「誰が好き好んで太陽に当たろうなどと」
「ですが、人間も陽の光を摂取しないと身体に悪いですよ」
「カーテンの隙間や木陰からちょびっと浴びています」
「木漏れ日の勇者さん」
「それにしても、ひまわりって大きな花ですよね」
「そうですねぇ。華やかで色も目立ち、なんだか元気が出てくるお花です」
「進化したら人喰い花になったり?」
「どうしてそういう発想になるのでしょう」
「昨日観た映画が」
「あ、察しました。ありがとうございます」
「中央の茶色い部分なんて、まさに大きな口のようですよ」
「勇者さんが楽しそうなのでおっけー」
「ひまわり畑に誘われて入り込んだ人間を、人喰いひまわりがばくっと」
「物騒ですね」
「獲物を見つけると、太陽を向いていた花が一斉に人間を見るのです」
「うわわ、ホラーですね!」
「そして、にたりと笑うのです」
「思ったより怖そうじゃないですか。いつものへんてこ映画と違いますね」
「そうでもないですよ。親友を喰われた主人公がひまわり畑をリヤカーで荒らしてまわり、片っ端から天ぷらにして食べ、耕した土地にかぼちゃを植える結末でした」
「どういう感想が正しいのか教えてください」
「かぼちゃの天ぷらもおいしいですよね」
「そうですね」
「ひまわりも食べられるのですか?」
「食用の花というものもあります。以前、菜の花の話をしたでしょう?」
「おひたしですね。あ、そうか。山菜を食べるのですから、花だって食べますね」
「その映画の主人公は勇者さんのようなたくましさですね」
「いえ、私よりもたくましかったですよ」
「どのような点が?」
「いかにひまわりの天ぷらをおいしく食べられるか研究していました」
「仮にも人喰い花なのに」
「塩、天つゆ、マヨネーズ、塩こしょう、様々なものを試していました」
「へんてこ映画の主人公って妙に図太いところがありますよね」
「親友の遺品であるレモン汁で食べた時は、思い出が蘇る感動的な場面でしたよ」
「遺品、それでいいんですか?」
「あの時の主人公のセリフはすばらしかったです」
「一応、訊いておきますね」
「『まったく、レモンが酸っぱくて涙が止まらない』」
「ぼくはどういう感情を抱けばいいのかわかりません」
「泣けばいいんじゃないですかね」
「泣けるかなぁ」
「レモン汁を目にたらして」
「号泣すると思います」
「こうしている間も、主人公の周囲には人喰いひまわりがうぞうぞ」
「味変している場合じゃないですよ」
「苦手だったポン酢がおいしいことに気づくシーンも必見」
「何事も挑戦です」
「大根おろしを作ろうにも道具がなくて、人食い花の牙を使うシーンは痺れました」
「たくましすぎるかも」
「周りのひまわりがドン引きしていました」
「でしょうね」
「おいしそうに食べるので、天ぷらが食べたくなる映画でした」
「親友が被害に遭っていることを忘れそうになります」
「最後まで観ることで、映画のキャッチコピーの謎も解明されました」
「ほお、どんなキャッチコピーだったのですか?」
「『今日のご飯は天ぷらで決まり!』」
「制作陣が天ぷらを食べたいだけだった説が浮上しました」
「あの映画を観て以来、ひまわりを見るとおいしそうだと思うようになりまして」
「いいんだか悪いんだか」
「主人公の食べっぷりは爽快でしたよ」
「不本意ながら、ちょっと観たくなってきました」
「楽しく観ることができましたよ。笑いあり涙ありレモン汁あり」
「ぼくもポシェットにレモン汁入れておこうかなぁ」
「何もなくなったひまわり畑でひとり項垂れる主人公の姿もよかったです」
「お腹いっぱいになって、親友を失った悲しみを思い出したのですか?」
「いえ、天ぷらで胃もたれが」
「急にリアルじゃないですか」
お読みいただきありがとうございました。
どうあがいてもくだらないものしか出来上がらない。
魔王「食べられる天ぷらの数で年齢がわかったりわからなかったり」
勇者「私は満腹までならいくつでも」
魔王「ぼくは三つが限界です」
勇者「あ、お年寄りだ」