664.会話 すだれの話
本日もこんばんは。
ずいぶん和風な異世界ファンタジー。
「もし……、そこの者……」
「なんですか」
「そこの少女よ……」
「だから、なんですか」
「そこの黒髪赤目超うるとらきゅーとでぷりちーな勇者さんよ……」
「知らない人ですね」
「ぼくと一緒にお話しませんか? しましょう。いざ、雑談たーいむ!」
「顔が見えないのになんでこんなにやかましいんですか?」
「日よけで買ってきたすだれなのですが、他にも活用できると思いまして」
「自然の香りがするカーテンみたいなものですね」
「顔が見えない相手との秘密の逢瀬ってどきどきしませんか?」
「えいっ」
「うああぁあっ! 太陽光が目に!」
「顔が見えない相手とのなんですって?」
「お、おおう、おうおうおぉぉう目がぁあぁぁ」
「よくわからないことばかりするんですから」
「ですが、顔を見られたくない勇者さんにはぴったりですよ」
「たしかにそうですね。すだれ勇者になろうかな」
「また新種の妖怪が」
「そこの者、金品を置いて行け」
「ただの強盗でした」
「ついでにお昼ごはんも作って行ってください」
「ただのひもじい人」
「すだれを見ていると、おそうめんが食べたくなります」
「夏のイメージですものね」
「細かい隙間を通れるのはそばでもうどんでもなく、おそうめんです」
「特殊な想像力ですね」
「流れるように生きていきたい」
「そういう生き方もすてきだと思いますよ」
「まるでおそうめんのように」
「あんまり聞かないたとえ」
「誰かに向けられた日差しを遮るすだれのような人に」
「ちょっとおしゃれな言い方ですね」
「でも私が暑いな」
「そこはがんばってください」
「代わりに注目を浴びるのも勘弁ですし」
「目立ちたくない病ですもんね」
「私の方を隠してほしい」
「すだれも困惑ですよ」
「私は薄暗い部屋の隅っこがちょうどいいのです」
「さみしいこと言わないでくださいよう」
「お昼寝にぴったり」
「心配して損しましたよ」
「暑い夏は涼しい部屋でごろごろが一番です」
「勇者さんはいつでもごろごろしている……」
「風に揺れるすだれ。心地よい音を響かせる風鈴。部屋に差し込む太陽の光」
「これぞ夏って感じですね」
「ちょっと掛けるものがほしいところ。すだれってお布団になりますか?」
「寝心地は保証できかねます」
「床に敷いたら涼しそうですよ」
「掛け布団はよろしいのですか?」
「あ、そうでした。じゃあ、寝転がったままくるくると……」
「勇者さん手巻き寿司?」
「守られている感じがします」
「防御力はなさそうですけどね」
「自然の香りがダイレクトに」
「木の葉に埋もれている時の勇者さんもそんな感じですよ」
「隠れ蓑にもなりそうですね」
「すだれが丸まっていれば怪しいですよ」
「こう、立てかける感じで、どうでしょう? 違和感はないと思いますよ」
「勇者さんのぼけっと具合が完璧にマッチしています」
「日頃から何も考えずに過ごしている甲斐がありました」
「ところで、その体勢つらくないですか?」
「太ももに変な力が加わっているのを感じます」
「明日は筋肉痛ですね」
「でも、これで穏やかな夏の午後を過ごすことができますよ」
「体勢つらいのに?」
「任せてください。私はどこでも寝られます」
「お昼ごはんのおそうめんを用意したのですが、どうしましょう?」
「隙間から流してください」
お読みいただきありがとうございました。
すだれっておいしそうですよね。
勇者「植物で日除けを作る方法もあるのですね。自然の力にひれ伏せ、と」
魔王「もっと少し穏やかになりませんか?」
勇者「ちょっと無理」
魔王「無理かぁ」