662.会話 賞与の話
本日もこんばんは。
みなさんもほしいですよね、シヨウヨ。
「勇者さん、賞与をご存知でしょうか。ボーナスともいうアレです」
「なんとなくは知っていますよ」
「ということで、本日は勇者さんへの賞与支給日でございます」
「そんな制度ありましたっけ」
「ぼくがいま作りました」
「唐突に乗せられた金貨の重み」
「だって、勇者さんってばいつもお小遣いを受け取ってくれないんですもん」
「魔王さんがバイトして貯めたお金でしょう。あなたが使ってください」
「すぐそういうこと言う。ですが、賞与という名目ならばどうでしょう」
「どうなるんですか?」
「公的にお金を渡すことができます」
「できません。お返ししますね」
「そんな。金貨の一枚や二枚や百枚や五百枚なんてたいした金額ではありませんよ」
「一枚でも大金なのに五百枚ってなんですか? 国でも買うんですか」
「ほしいですか、国?」
「いらないです。マジな目やめてください」
「心配しなくても、きれいなお金ですよ?」
「魔王が勇者にお金を渡す時点でちょっと怪しいんです」
「そんなこと言わずに。ほら、通帳にもちゃんと『シヨウヨ』って書いてあります」
「どこから出してきたんですかこれ。……ん? 『キウヨ』ってなんですか?」
「お給料のことです」
「いつの間に振り込んでいるのですか」
「神様からお給料すらもらえないきみのために、ぼくが毎月コツコツと」
「そんなことしなくても」
「勇者さん、手渡しだと受け取ってくれないので振込にしました」
「さも当然のように言われると返答に困りますね」
「キャッシュカードでいつもで出金できますよ」
「こういうのって、本人じゃなくても作れるんですね」
「親権者をぼくにしたので」
「勝手に親にならないでください」
「公的に認められるってすばらしいですね……」
「私は認めていないんですけど」
「まあまあ、せっかくのボーナスなのです。何か買いませんか?」
「急に言われても思いつきません」
「ずっとほしかったもの、いつもより豪華な食事、日頃お世話になっているひとへのお礼、もちろん自分へのご褒美も忘れずに。さあ、どうします?」
「……ミソラのリボンとかですか?」
「そうそう、そういう感じです。はい、金貨どうぞ」
「お値段が金貨のリボンってぼったくりじゃないですか」
「超高級な素材を使用しているのですよ。たぶん」
「案外テキトーですね」
「とはいえ、物の価値よりほしいものだと思います。それがきみの望むものなら、どんな物にも代えがたい価値があるのですよ」
「いいこと言いますね」
「おや、こんなところに唯一無二の魔王がこんにちは」
「なんですか急に」
「なにものにも代えがたい魔王さんですよ」
「そうですか。近づかないでください」
「すごい。見えない壁がある。これが勇者の力なのですね」
「やかましいですよ。ハグしようとしたら吹っ飛ばしますからね」
「身体が吹き飛ぶほどの勇者さんの愛ってことですか? どんとこいです」
「ミソラ、あのひと放っておいて行きましょうか」
「ああ~、恒例の置いてけぼり」
「ちなみに、魔王さんは賞与を何に使うのです?」
「気になりますか? 知りたいですか? 関心持っちゃいますか?」
「参考程度にはなるかなって」
「ぼくは勇者さん関連に使いますよ。まず、高級なレストランのディナーを予約して、オーダーメイドのドレスを着てもらって、スイートルームのホテルでぐっすり眠ってもらい、動物園のふれあい広場を貸切ってうさぎさんと戯れてもらうのです」
「最後だけうれしいです」
「前半は……」
「よくわかりませんでした」
「ええとですね、おいしいご飯を食べて、かわいい服を着て、ふかふかのベッドで眠る」
「わあい」
「これぞ我が金貨の使い道なり……。生涯に悔いなし」
「それ、私だけじゃなくて魔王さんも一緒ですか?」
「はい。ですが、おひとりの方がよろしければ予約を変更することもできますよ」
「……いえ、別に結構です。行きましょうか」
「おや、『魔王さんが一緒だとくつろげない』と言うのかと」
「だって、あなたがさっき、日頃お世話にって……なんでもないです」
お読みいただきありがとうございました。
キウヨ。シヨウヨ。すてきな言葉です。
魔王「おや、このケーキは一体?」
勇者「さっき助けた人からもらったお金で買ってきました」
魔王「すてきですね! でも、なぜ二つ?」
勇者「なんとなくです」