661.会話 海の先の話
本日もこんばんは。
世界は丸か三角か四角か星型か。
「海の先には何があるのでしょうか」
「知らない世界が広がっているのですよ」
「超巨大ウォータースライダーとか?」
「超巨大なんて?」
「以前、海の先が断崖絶壁になっている絵を見たのです」
「ああ、それは想像で描かれたもので、実際はですね」
「浮き輪で流れていくと、ひゅーんと落ちるらしく」
「いえ、あれは想像で」
「もっと楽しむためにウォータースライダーを作ればいいと思いました」
「勇者さんがかわいいのでぼくも賛成です」
「では、流れていった先には何があるのでしょうか」
「何があると思いますか?」
「海底火山の温泉があったらうれしいです」
「はい採用~。もうめっちゃそれにします」
「上に戻るのが大変そうですが、それも心配いりません」
「なぜかちょっと得意げな勇者さん最高すぎる」
「間欠泉でどっかーんですよ、魔王さん」
「世界にありがとう~。豊かな想像力に乾杯~」
「間欠泉ってすばらしいですね。しゃぶしゃぶも作れるのですから」
「もしかして、世界の果てに行ったり行かなかったりするテレビ観ました?」
「私もやってみたいです」
「危険なのでやめてください」
「急に現実的なことを言うじゃないですか」
「間欠泉でしゃぶしゃぶは現実であったことだからです」
「その言い方だと、海の先断崖絶壁説は嘘なんですか?」
「どうするぼく。真実を言うか、夢を持たせるか、どうするぼく」
「やってみたかったなぁ、超巨大ウォータースライダー」
「いやでも、さすがにここは現実を言った方がいいか、どうするぼく」
「海底火山の温泉、気持ちよさそう」
「いやでも、ぼくは勇者さんが幸せならそれで……!」
「そうだ、魔王さんの力で海を真っ二つにすればいいのです」
「勇者さんが幸せならそれでいいと思いましたが、さすがに待った」
「ざっぱーんとできませんか?」
「そんなことしたらぼくが魔王になっちゃうじゃないですか」
「最初から魔王ですよ」
「そうでした。うっかり」
「海を半分に切って、流れるプールとウォータースライダー、温泉を作るのです」
「大規模すぎませんか?」
「夢は大きく、理想は高く、気持ちは強く、ですよ」
「勇者さんが体育会系みたいなキャッチコピーを」
「体育会系に失礼ですよ」
「そうでした。きみは体育館で寝そべる系でしたね」
「体育館が何か知りませんけど、寝そべられるなら寝ますよ、私は」
「普通の地面にも寝転がる人ですからね。せめて木陰に移動して欲しいです」
「砂利道って痛いんですよね」
「痛いと言いながら寝そべるので、もう救いようがありません」
「えー、救ってくださいよう」
「通りすがりの聖女もびっくり」
「お恵みを」
「すてきなお腹の音ですね。お昼ごはんは何にしましょうか」
「むしゃむしゃ……」
「こら、草を食べない」
「海の先に思いを馳せていたので、おさかなの気分です」
「白身ですか。赤身ですか」
「えーっと、じゃあ黄身で」
「それはたまごですね」
「黄色い魚もいるじゃないですか。図鑑で見ました」
「中身まで黄色いわけではありませんよ?」
「魔王さんが知らないだけで、海の先の先の先の先の右側くらいにいます」
「最後にちょっと曲がりましたね」
「広い広い世界なんです。知らないことはたくさんありますよ」
「その通りです。いつか海を渡る旅もするかもしれませんね」
「でも私、泳げないからなぁ」
「泳いで海を渡る人は超人か変人だけですよ」
「ああ、魔王さんのことですね」
「誰が変人ですか」
「二つの選択肢があるのに変人を選ぶということは、そういうことです」
「ぼくは普通です。浮き輪に乗って十年くらい海を流れたことしかありませんもの」
「それは遭難っていうんですよ。一体何をしに海に行ったのですか」
「流れるプールに憧れて」
お読みいただきありがとうございました。
海の向こうでゆっくり流されていく魔王さんがひとり。
魔王「ぼくに飛んできたトビウオを食べた思い出」
勇者「よく捕れましたね」
魔王「普通に刺さるので」
勇者「痛そう」