66.会話 コンサートの話
本日もこんばんは。
コンサートというか屋外ライブというか、そういう話です(ふんわり)。
ノリと勢いでお読みください。
「おや、人だかりができていますね。どうやらコンサートが開催されているようです」
「こんさーと、ですか」
「とーっても簡単に言うと、音楽を聴く催しのことですよ。ほら、あちらのステージで歌手の方が歌っているでしょう?」
「人間が多すぎる……。早々に立ち去りましょう。行くもんじゃないです」
「無料開放されているんですから、ちょっと寄ってみませんか?」
「蟻地獄のような場所に自ら行けと」
「意味が二重になってますね。遠くからでもいいですよ。せっかくの機会ですし、コンサートをみていきましょう」
「他人が歌っているのを聴いてなんの得があるんですか」
「うーん、楽しいとかうれしいとか、わくわくとかどきどきとか? 音楽を聴くことで様々なものが得られるのですよ。勇者さんもぼくに歌えと言ってきたじゃないですか」
「あれは睡眠導入用です。実際は睡眠破壊になりましたけど」
「うっ……。で、ですが歌の力というものを感じられたでしょう?」
「身をもって」
「集まっている方々も、きっと歌の力をもらいに来ているんですよ。いま歌っている方、とってもお上手ですよね」
「魔王さんの歌に比べれば誰でも上手に聴こえます」
「ひどい。心を込めて歌うことに意味があるのです。歌は魔力のいらないすてきな魔法なんですよ」
「先ほどからの口ぶりからするに、魔王さんはほんとうに歌がお好きなんですね」
「……自分が……下手なもので……憧れが……はい……」
「すみません。そこまでダメージ食らうとは」
「歌うのも聴くのも好きですよ。昔はよく姿を変えて人間たちに紛れ込み、コンサートに行ったものです。あれはよい時間でした」
「コンサートを中止に追い込んだりステージを破壊したりするのが魔王でしょうに」
「誰ですかそんな野蛮なことをするのは!」
「魔王さんのお役目でしょう」
「し、しませんよ。チケットの当落前日は夜も眠れないぼくが、コンサートの妨害をするだなんて。言語道断です悪しき所業です許されませんまるで魔王のすることです!」
「ツッコんだ方がいいですか?」
「……こほん。それはそうと、こういったイベントがある時は人が多く集まるので屋台なんかもたくさん出ていると思いますよ」
「なんと⁉ そんな大事なこともっとはやく言ってください。行きますよ屋台に!」
「あ、あくまで主役は歌ですからね?」
「だいじょうぶですよ。爆音で流れているんですから、どこにいたって嫌でも聴こえます。食事を楽しみながら音楽観賞だなんて洒落てるじゃないですか」
「両手いっぱいに食べ物を持ちながら言われましても。ん?」
「ほうひまひた?」
「食べている時のおしゃべりはお行儀が悪いですよ。あのポスター見てください。あ、ぼく読みますね。『スター発掘! 飛び入り歓迎! 歌うま選手権!』」
「はあ……。それがどうかしましたか」
「優勝者はデビュー確約と有名音楽家からのオリジナル楽曲提供だそうです」
「へえ」
「一ミリも興味がなさそうですね。では、これならどうです? 『焼肉一年分贈呈』」
「焼肉一年分⁉ な、なんですかそれ」
「食いつきが違う……。このイベントのスポンサーに焼肉で有名なお店があるみたいです。自社の宣伝を兼ねた景品でしょうね。焼肉と言っても生肉をもらうのではなく、サービス券や会員証といった形の景品――」
「そんなことはどうでもいいんですよ。焼肉一年分ですよ。いただくしかありません」
「ですが、大勢の前で歌わなくてはいけませんよ?」
「お面やら布やらで顔を隠し、歌ったらすぐにはけるのでだいじょうぶです。さて、参加手続きをしなくてはいけませんね」
「これどうぞ、勇者さん」
「なんですかこれ。ネームプレート?」
「歌うま選手権の参加証ですよ。ちなみに名前は『トリ・カブト』さんです」
「いつの間に……。あと名前、それで通るんですね」
「みなさんに勇者さんの素敵な歌声を聴いてほしくて、勇者さんが屋台で金銭を湯水のように落としている間に受付を済ませておいたんです」
「得意顏で言うことではないかと」
「さあさあ、もうすぐ出番ですよ。勇者さんは二十二番目の挑戦者です」
「ちなみになんですが、敵は何人いるんですか?」
「ライバルと言ってください。二十二人ですから、勇者さんが最後の挑戦者ですね」
「……あの、もしかして私の名前そういう意味でつけたんですか」
「え? なんのことです?」
「どこ見てんですか。おら、こっち向け。吐け」
「そ、そろそろ行かないとですよ。ぼくはステージの最前列で見守っていますからね!」
「見なくていいです」
「行ってらっしゃいです~」
「やれやれ……。仕方ないですね。本来ならこんな場所、近づきたくもないですが……。屋台の魔力に負けたようです。あと焼肉。テキトーに歌って、屋台で買いあさって、さっさと立ち去るとしましょう。……ふむ、このお面をお借りしましょうか。やけに派手ですが、まあいいです。私からは見えませんし――っと、呼ばれたようですね。ちょっくら歌うといたしましょう」
「わあ~~待ってましたよ~~‼」
「いや、うるさ。ステージの目の前がうるさいですね」
「がんばれ~~勇――ぴぎゃあ⁉」
「……あぶない。『勇者』と呼ばれたらおしまいです。小石を拾っておいて正解でした」
「……ひどいですう。ですが、ぼくはここで応援しますからね」
「黙っていてくれれば問題ないです。さてさて、もう歌っていいみたいですね。えー、こほん、ナンバー二十二、トリ・カブトです。歌います。~~♪」
「ほわ、ほわあああああぁぁぁぁぁ……‼ さすがです、さすがです……。なんと素晴らしい歌声なのでしょう……! 大きなステージと音響によって歌声が会場中に響き渡っています……。ハッ、聴いている人々が息をのんで聴き入っていますよ。屋台の方も手や足を止め、みなさんがステージを注目しています!」
「~~♪ ~~~~♪。…………ふう。こんなもんですかね」
「ぶらぼーです~‼ とっても素敵でしたっ‼」
「うわ、なんかすごいことになってる。拍手うるさ」
「さすがです! さすが勇者さんです‼」
「……あ」
「……あっ」
「……おばかさん」
「す、すみませんすみません。あ、どうしましょう人々がざわつき始め――」
「逃げますよ、魔王さん」
「えっ、焼肉一年分はいいんですか?」
「私が優勝するなんて思っていませんし、焼肉は魔王さんに払わせるので」
「払うのはいつものような気が」
「ざわついている間がチャンスです。このお面も役に立つ。そぉい!」
「あ、お面投げちゃっていいんですか?」
「いいんですよ。すう……。みんなー! 勇者はそっちだ! お面の方向だー!」
「おお、頭いいですね。……こっち、めちゃくちゃ見られていますけど」
「混乱を招くのが目的です。これだけ人間がいますからね。突然動くのは難しいはずです。そこから抜け出たとしても、数人なら潰せます」
「潰しちゃだめですよね? きみ、勇者ですよね?」
「安心してください。みねうちです」
「それもだめですからね⁉」
「文句が多いですね。元はと言えば魔王さんが偽名を言わなかったのが発端でしょう? なんのための偽名ですか」
「だって……、勇者さんは勇者さんですし」
「トリ・カブトさんに謝ってください」
「遠回しに勇者さんに謝罪しろと言っているような」
「焼肉は残念ですが、屋台の商品はあらかた食べましたし、歌うのも……まあ楽しかったのでよしとします。焼肉は残念ですが」
「二回言った」
「魔王さんはたいして食べたり飲んだりしていませんが、楽しめたんですか?」
「あ、それはもう、とっても。ぼくのやりたかったことはできましたから」
「なんですか、やりたかったことって」
「そりゃあもう、最高の席で最高の歌を聴くことですよ」
「歌手の時は屋台のところにいたじゃないですか」
「最高の歌がプロだけとは限りませんよ。それに……、勇者さんの素敵な歌を人々に聴いてもらう。この目的も達成できました」
「すみません、声が小さくて。何か言いました?」
「いえいえ。そうだ勇者さん。また歌ってくださいね」
「えー」
「ステージもライトもありませんが、勇者さんの歌、また聴きたいです」
「……たまになら」
「やったぁ!」
「それに、やっぱり人間がうぞうぞしているのは落ち着きません。観客はせいぜいひとりでじゅうぶんです」
「永年契約を結びましょう。このプロデューサー魔王と!」
「報酬は?」
「焼肉死ぬまで!」
「いいでしょう。その他もろもろのごちそうもつけてくださいね」
「お財布に厳しいシンガーですねぇ。ところで勇者さん。あの投げたお面、ちょっとセンスを疑いましたよ」
「偽名に沿ったお面だと思いましたが」
「派手にもほどがありますよ。視覚と聴覚が混乱しました。小道具なら他にもたくさんあったと思いますが、なぜあれを選んだんです?」
「トリで飾るために」
「だから鳥面?」
「まさに、でしょう」
お読みいただきありがとうございました。
「トリ・カブト」さんの結果は神のみぞ知る。
魔王「大勢の前でも素敵な歌声は変わりませんでしたね」
勇者「歌っている人は同じですからね」
魔王「プロデビューも近い! かも! ヒュー!」
勇者「テンション高いですねぇ」




