656.会話 海賊の話
本日もこんばんは。
海賊のイメージがどうがんばっても麦わら帽子の天目。
「世の中にはたくさんの荒くれ者がいますね」
「わりと勇者さんもその類かと」
「大変失礼な魔王は放っておいて、ひとつ疑問があるのですが」
「放っておかれた魔王です、こんにちは。はいはい、なんでしょう?」
「海賊は海で活動する荒くれ者ですよね」
「海限定というわけではないですが、まあその解釈で構いませんよ」
「三半規管へなちょこ海賊っているのでしょうか」
「もうかわいそうなんですけど」
「いつも船酔いしちゃう人」
「海賊やめた方がいいんじゃないですか」
「こどもの頃からの憧れかもしれないのに」
「海賊に憧れるのはちょっと」
「魔王に憧れる人間がいても同じことを言うのですか?」
「当たり前じゃないですか。魔王は憧れるものではありません」
「目を輝かせて魔王さんを見てくるんですよ」
「それはめちゃくちゃうれしいですが、魔王はだめです」
「きらきらオーラを纏わせて魔王さんの一挙手一投足を喜ぶのですよ」
「それはハチャメチャにうれしいですが、魔王はだめですってば」
「『魔王様びっぐらぶ!』って言ってくれるんですよ」
「ぼくもびっぐらぶ~~~~! じゃなくてですね、魔王はだめです」
「海賊なら?」
「この流れならいけると思ったのでしょうが、だめです」
「では、私が海賊になりたいと言ったらどうしますか」
「とりあえず面談をします」
「私の気持ちは変わりません」
「であれば、次は三者面談をします」
「第三者は一体誰ですか」
「かぐやさんです」
「あのひとは仕事が詰まっているでしょうから話しかけないであげてください」
「他に思い当たるまともなひとがいないのですが」
「これだけ長生きなのに?」
「仕方ないので、ぼくが分身して三者面談を」
「ややこしい二者面談やめてください」
「百歩譲って憧れるのはよいですが、現実を知らないといけませんよ」
「任せてください。職場体験も申し込みます」
「海賊って職場体験実施しているんですか?」
「船酔いしやすい人も歓迎だそうです」
「お断ってください」
「食事は各自で用意するらしいですよ」
「へえ、結構厳しいのですね」
「定期的に上陸するので、その時に民家などを襲って奪ってくださいと」
「なんてこと教えているんですか」
「魔物との戦闘経験豊富な人には手当ても出るみたいです」
「勇者さんはうってつけですね」
「魔物も人間も、ひとり倒すたびに銅貨一枚」
「人間は倒しちゃだめです」
「おもしろい特技があればなおよし」
「急に特技ですか。なぜです?」
「船の上は暇なんじゃないですかね」
「ババ抜き楽しいですよ」
「もう何度もやっているはずです」
「困りましたね。ぼくにはこれといって特技がないのです」
「私もです。これでは採用されません」
「勇者さんはこれまで観たB級映画の話でも語ればよいのですよ」
「あんなへんてこ映画を語ったら、頭のおかしい人だと思われます」
「だいじょうぶですよ。元からです」
「めちゃくちゃ失礼だなおい」
「ぼくができることといえば、料理くらいでしょうか」
「食事は娯楽にもなりますからね。船上では重宝されるはずですよ」
「腕がなりますね」
「魔物もじゃんじゃん倒しますし、料理は上手だし、なんちゃって聖女だし」
「褒めていらっしゃいます? ありがとうございます!」
「歌は壊滅的にへただけど」
「それはどうしようもないです」
「面接で『すべての三半規管をぶっ壊す!』と言えばインパクトありますよ」
「印象付けることが大切ですからね」
「荒くれ者たちもスタンディングオベーション」
「たくさんの拍手が聴こえます」
「おめでとうございます、これであなたも立派な海賊に」
「いや、なりませんって」
お読みいただきありがとうございました。
愛すべき三半規管へなちょこ海賊。
魔王「海賊みたいな宴を開きましょうか」
勇者「大きな骨付き肉がいいなぁ」
魔王「野菜も食べましょうね」
勇者「健康的な海賊だこと」