654.会話 衣替えの話
本日もこんばんは。
いつも同じ服とはいえ、絵がないので結局どういう服かよくわかりません。
「勇者さん、そろそろ衣替えの季節ですね」
「私たちは年中同じ服を着て――」
「ということで、夏にぴったりの服をご用意しました。どれがいいですか?」
「いえ、結構です。ていうか、なんですかこの量は」
「勇者さんの好みを探すため、とりあえずお店を一軒まるごと買って」
「返品で」
「冗談ですよう。こちらはレンタルお洋服です。気に入れば購入もできますよ。最初はほんとうに買おうとしたのですが、持ってくるのが大変だったのでやめました」
「正気でよかったです」
「勇者さんの衣替えは毎日行われることで有名ですね」
「息をするように捏造しないでください」
「題して、『毎日がファッションショー』」
「どことなく漂う『毎日がエブリデイ』と同じ匂い」
「あ、わかります? 今日は柔軟剤を変えてみたのですよ」
「え? ああ……、えっと、はい、うん、わかります」
「勇者さんから優しさの欠片を感じました」
「衣替えについてなのですが、この日と決める必要はあるのでしょうか」
「明確な決まりはありませんが、なんとなくそう思ってしまいますね」
「気温の感じ方は人それぞれですし、急に寒い日暑い日もあるでしょう」
「もちろんそうですね」
「着たい服を着たい時に着る。それでいいじゃないですか」
「ごもっとも。では、どれがいいか選んでくださいな」
「話きいてました?」
「ばっちりです。ささ、お選びくださいませ」
「私は遠回しに遠慮したつもりだったのですが」
「それを踏まえて気づかなかったことにしました」
「楽しそうに服を並べていらっしゃる」
「衣替えなんて建前です。ぼくは勇者さんにいろんな服を着せたいだけですので」
「悪びれることなく本音を言いましたね」
「隠す必要もありませんから」
「清々しさは評価しますが、さすがに量が多すぎます。魔王さんセレクトはどれです?」
「えっ? 今、メイド服学生服小生さんナース服赤ドレスを着るとおっしゃいました?」
「一言もいっていない」
「ぼくの耳にははっきり聴こえましたよ」
「相変わらず幻聴」
「とりあえず、夏にぴったりのメイド服を着てみませんか?」
「どの辺が夏なんですか」
「フリフリのフリルとか、白黒のチェック柄とか、短いスカートとかです」
「あまりにもまっすぐ言うので騙されそうになる」
「あ、待ってください。夏用メイド服もちゃんとあります!」
「嫌な予感しかしない」
「じゃーん、メイド服水着Verです!」
「魔王さん、一体どんな店でレンタルしたんですか」
「『あの子に着せたいあんな服が揃うコスプレ店』ですよ」
「魔王に似合わないのに魔王さんに似合う……」
「ぼくもビビッときましたよ」
「まずはご自分で着てください」
「ぼくのメイド服なんて誰が喜ぶんですか?」
「その辺の石ころとか雑草とかアメンボが立ち上がって涙するんじゃないですかね」
「めんどくさそうに言われちゃった」
「というか、コスプレグッズだと一般的な服はないということですか」
「メイド服さんからすれば仕事着ですけど」
「一応、勇者なので」
「あっ、勇者さんの激レアセリフが!」
「まさかこのタイミングで言うことになるとは」
「ぼくは聴けてうれしいですよ」
「魔王さんを喜ばせたので、衣替えはしなくていいですね」
「それとこれとは話が別です」
「誤魔化せなかったか」
「メイド服がお気に召さないのであれば、他の服でもいいですよ」
「どれもこれもコスプレ用のものばかり」
「勇者と魔王の服もあります」
「あ、世間一般のイメージ服」
「ちなみに、ぼくは聖女のコスプレをしているのですが、気づきました?」
「……あれ、いつもと少し服が違いますね」
「聖女でもないひとが聖女服を着るのは普通に冒涜なのでめっちゃ怒られますけどねー」
「まあ、あなたは魔王ですし」
「そういうことです。こういうのは楽しんだもの勝ちですよ。はい、どうぞ」
「だからといってメイド服は着ません」
「誤魔化せなかったか」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんの服がいまだによくわかりません。
勇者「日頃から聖女のコスプレをする魔王の聖女コスプレ」
魔王「ややこしいですね」
勇者「日頃から聖女のコスプレをする魔王の魔王のコスプレはどうですか?」
魔王「もっとややこしいことに」