653.会話 おしぼりの話
本日もこんばんは。
おしぼりだと小さいのでバスタオルにしてほしいです。
「お店で提供されるおしぼりが結構好きでして」
「ほっとしますもんねぇ」
「ちゃんと客として認識された感じがします」
「なんでそんなさみしいことを言うのですか」
「フードを被った怪しい人なので、もしかしたら幻覚だったかと思われそうで」
「勇者さんはしっかりここに存在していますよ」
「そういうわけで、おしぼりが人数分出てきた時は安心します」
「独特な安堵ポイントやめてください」
「でも、たまに信じられないくらい熱い時がありませんか?」
「わかります。手に取った瞬間に『あっつ!』ってなりますね」
「温かい濡れタオルの概念を破壊する灼熱おしぼり」
「思わず天高く放り投げることもしばしば」
「でも、冷えるのもはやい」
「ほどよい温かさの時を狙うのが意外と難しいのです」
「熱々から急激な冷え。まるで世の中のカップルのようですね」
「勇者さん、お付き合いの経験があるのですか?」
「ないです」
「まるで知ったかのような言い方にぼくはどきっとしましたよ」
「独断と偏見で言いました」
「ぼくとしては、ずっと熱々でいてほしいですねぇ」
「仲睦まじい人間を覗き見る趣味がありますもんね」
「物陰からにこにこしていますよ」
「にやにやの間違いでは?」
「似たようなものです」
「これだから顔が聖女は」
「我が身の神々しさで怪しさをカバーするのです」
「でも、限度というものがあることをご存知ですか」
「聖女の見た目をもってしてもですか?」
「でれでれ魔王さんの溶け具合は目も当てられませんよ」
「愛が溢れていてすみません」
「そんなあなたに熱々おしぼりアタック」
「あっっっっつ! 顔面が灼熱に!」
「物理的に溶けるかと思いまして」
「信じられないくらい熱いです。もはや武器です」
「私の新しい武器に採用しましょうか」
「すぐ冷めるデメリットはどうやって解決しますか?」
「魔王さんの首元にそっと置いて」
「ひいっ……。じ、地味な嫌がらせはやめてくださいよう」
「これを真冬の早朝、洗顔している魔王さんにですね」
「うっ……、考えただけで寒気が」
「熱々も冷え冷えも活用するのが勇者というものです」
「ただいたずらしたいだけですよね」
「魔王のくせにおしぼりで一喜一憂するとは」
「勇者さんのいたずら心にどきどきです」
「どきどきといえば、食事前におしぼりを使うとその後の使い方がわからず不安です。手を拭いているんですよ。それで口を拭くのは抵抗があるような」
「それもそうですねぇ。あ、先に手を洗えばいいのですよ」
「おしぼりで手を拭くのって、洗浄の意味じゃないんですか」
「ああ~……。すみません、あまり考えたことがなくて」
「たまに、顔を拭く人もいるみたいですね」
「温かいタオルでさっぱりってことですね」
「手を拭いて顔を拭いて口を拭くんですか? 無理がありますよ」
「使う場所を分けるのではないでしょうか。表と裏みたいな」
「それだと二回までしか使えません」
「新しいおしぼりをもらうのかもしれません」
「そこまでして拭きたいですか」
「そういう人もいるのでしょう。たぶん」
「魔王さんもよくわかっていないのですね」
「こればかりは好き好きですから」
「あなたならでの使い方があるということですね」
「そういうことです。ぼくは熱々のうちに手を拭いてから勇者さんを見る使い方です」
「後半いらんな」
「想像以上の熱さに悪戦苦闘しつつ、最後は丁寧に畳んで置く勇者さんきゅーと」
「あれ、畳まないんですか? 魔王さんもそうしていますよね」
「ぼくの真似をなさっているのですね。いやぁ、光栄です最高ですかわいいですね」
「使ったことがわかるように、ぐちゃぐちゃで置いておいた方がいいのですか?」
「なんでもいいと思いますが、気になるならぼくが預かりますよ」
「預かってどうするのですか」
「上手に使えましたね~って観賞を」
「返してください」
お読みいただきありがとうございました。
おしぼりの使い方がいまいちわかりません。
魔王「ルールやマナーをぼくを見て学ぶ勇者さんまじきゅーと」
勇者「言葉で教えてくれればいいのに」
魔王「こどもは大人を見て成長するものですから」
勇者「カメラを構えるな」