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652.会話 謎のスイッチの話

本日もこんばんは。

ろくなことがなさそうなサブタイ。

「机の上に謎のスイッチがあります。私にはわかります。めちゃくちゃ罠」

「そ、そんなんじゃないですよ。気にせず押してくださいな」

「今度は何を企んでいるのです?」

「スイッチを押すごとに勇者さんの上から金貨が一枚降って――」

「違いますよね」

「スイッチを押すごとに勇者さんのスマイルがぼくに――」

「違いますよね」

「スイッチを押すごとに……ええと……その……あの……えへ……」

「あなたのことですから、危険なことはないでしょうけど」

「そうです! これが今までに培ってきた信頼の実績!」

「だからといって押しませんが」

「そんな。上げて下げる勇者さん」

「魔王さんが何か企んでいる時はろくなことがありません」

「そんな。あんまりですよう」

「ななの時やきゅうの時もあります」

「そこが変わる時があるんですね」

「魔王さんって魔王のくせにこういう遊びが好きですよね」

「正確には、勇者さんにちょっかいをかけるのが好きなのです」

「やっぱりろくなスイッチではないようですね」

「き、危険はありませんよ?」

「では、何があるのですか」

「ぼくの欲望ですね」

「絶対に押したくない」

「またの名をぼくの愛」

「言い直されたのに押したくない気持ちが増加しました」

「一回でいいのですが」

「上目遣いしないでください」

「あわよくば二回三回四回五回……百回押してもいいのですよ」

「遠慮する気配が欠片もありませんね」

「人生一度キリ。自分のやりたいように生きる方が楽しいじゃないですか」

「不老不死が何か言っている」

「ぼくはいつだって己の欲望に素直ですよ」

「そこは魔王っぽいですね」

「勇者さんのボイス録音したいし勇者さんの写真を四六時中撮りたいし勇者さんの」

「ストップストップ。静まれ」

「なぜです? 軽く三時間は語れますよ」

「だから止めたんですけどね」

「とはいえ、ぼくの欲望が三時間で収まるわけはないのです」

「余計にたちが悪い」

「もちろん、勇者さんが謎のスイッチを押してくれたらうれしいなという欲望も」

「押しませんってば」

「見え透いたスイッチなのに?」

「見え透いたスイッチだからです。どうせただのスイッチではないのでしょう」

「そりゃあねぇ」

「当然のように頷かないでください」

「せっかく夜なべして作ったのですよ」

「だから今日の朝はいつもより寝起きが悪かったんですね」

「魔王の力を集結して作った珠玉の一品」

「他のところに力を入れてほしい」

「出来には自信がありますよ」

「不器用なのに?」

「魔力で作りましたから。そこそこ雑でもなんとかなるのが魔王の魔力なのです」

「便利だなぁ」

「なんでもありと書いて魔王と読むのはご存知かと」

「普通に知りませんよ」

「括弧で制限付き。おのれ神様」

「もしかして、不器用なのは神様の制限によるものとか?」

「いえ、まったく関係なくぼくの特性です」

「ある意味で悲しいですね」

「そんなぼくががんばって作った謎のスイッチ。さあ、今なら一回無料!」

「魔王が使う宣伝文句にしては弱い」

「三回無料にしましょうか?」

「四回目以降はお金を取るのですか」

「勇者さんのスマイル一回かかります」

「私に何のメリットもない」

「あっ、待ってください。一回だけ! 一回だけでいいので!」

「仕方ないですね……。はい、押しますよ」

「元気よくぽちっとな!」

「……スイッチからシャッター音が聴こえたのですが」

「はい! スイッチに見せかけた特殊カメラをご用意し――アッ殺意の目」

お読みいただきありがとうございました。

ろくなことがあるわけがないSS。


勇者「もう少し魔王っぽいことをしてください」

魔王「勇者さんの隠し撮りは魔王っぽくないですか?」

勇者「魔王っぽくはないですが魔王さんっぽいです」

魔王「じゃあ、オッケーですね!」

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