651.会話 ホットとアイスの話
本日もこんばんは。
あれって実際どうなの問題。
「詐欺だと思うんですけど」
「なんですか急に。ホットココア、お口に合いませんでした?」
「いえ、おいしいです。でも、詐欺だと思うんです」
「何がです? そんなにぼくのアイスココアを見つめて」
「ホットココアとアイスココア。どちらも値段は同じですよね」
「そうですよ」
「……なんか、量が違いません?」
「容器が違うから、そう思うだけではありませんか?」
「でも、明らかに容器の大きさも異なります。それなら、量も変わるような」
「アイスは氷を入れるぶん、容器が大きくなるのでしょう」
「それにしたって違うような~……」
「お店の中で計量カップを使うわけにもいきませんからねぇ」
「お腹のたまり具合で測るしかありません」
「飲み物ばかりはよくないですよ」
「サンドイッチも食べます」
「サラダもどうぞ」
「もぐもぐやっぱり量が違うともぐもぐ思うのですもぐもぐ」
「どうしても気になるのですね」
「アイスの方がお得ではありませんか?」
「そう思うのならアイスココアを飲めばいいのですよ」
「今日はホットの気分なのです」
「困りましたねぇ」
「私は真相を明らかにしたいだけなのです」
「名探偵勇者さん」
「値段が違えば納得するのですが」
「同じ値段ということは、つまり容量も同じということですよ」
「じゃあ、容器も同じにするべきです」
「小さなカップに氷は入らないのですよ」
「さっきもその話をしましたね。ううーん、どうしたものか」
「お金を払うのはぼくですので、あまり気にしなくていいですよ」
「私が提供する側だったとして」
「風向きが変わりましたね」
「たろうさんのアイスココアに氷を九つ入れた時と、じろうさんのホットココアを百五十ミリリットルのカップに入れた時の差はどれだけでしょうか」
「算数の問題? というか、それだとたろうさんのココアの量がわかりませんが」
「ハッ、思いつきました。ひらめきました。アイスココアから氷を抜くのです」
「なるほど、氷以外のココアで量を比較するのですね」
「そういうわけで、魔王さん。氷をすべて食い尽くしてください」
「そうしてあげたい気持ちはあるのですが、氷がいくつか溶けてしまって」
「薄れて量が増えた可能性がありますね」
「これでは正確な比較ができません。どうしましょうか?」
「魔王さんならできるはずです。氷を戻してください」
「吐き戻せとおっしゃいますか。さすがにそれは絵面的にちょっとあのですね」
「違いますよ。新しく氷を入れるんです」
「ぼくの氷魔法をお望みですか。全然やったことなくてできるかどうか……」
「いえ、店員さんに氷をもらってきてください」
「非常に端的な方法ですね」
「魔王さんのココアを薄々にしてやる」
「ぼくに何の恨みが」
「魔王と勇者ですけど」
「ココアだけは見逃してください」
「お断ります。薄っぺらい味のココアを飲むがいいです」
「ああ、無慈悲」
「ココアに限らず、ホットはアイスに比べて量が少ない気がします」
「アイスコーヒーとかですか? どうですかねぇ」
「これは世界に残る謎になるでしょう」
「店員さんに訊くという手もありますが」
「正解に一直線はおもしろみに欠けませんか?」
「解明したいんじゃないのですか」
「そりゃもちろん。でも、謎のままの方がいい時もありますよ」
「詐欺だと言ったのはどこの誰でしたっけ」
「誰でしたっけねぇ」
「勇者さんがいいのなら、ぼくもいいのですが」
「謎だからこそのよさがあると思いませんか」
「よくわからない話をしている間にココアがなくなってしまいましたね」
「さーて、次はアイスココアを飲もう」
「おや、今日はホットの気分ではなかったのですか?」
「変わったのです、ふふん」
「なにやら楽しそうですね」
「謎を解明する気に変わったのですよ。我が身をもってね」
お読みいただきありがとうございました。
絶対アイスの方が多いだろ問題。
勇者「飲み過ぎてお腹が……」
魔王「言わんこっちゃない。それで、謎は解明しましたか?」
勇者「ココアがおいしいことしかわかりませんでした」
魔王「よかったですね」