65.会話 墓の話
本日もこんばんは。
墓の話ですが別に暗くはないので安心してください。
「魔王さん、あれはなんですか。木の棒が十字に組まれて地面に刺さっています。何かの儀式でしょうか」
「儀式……。たしかにそうですね。あれはお墓ですよ。あの下に亡くなった方がいらっしゃるはずです」
「へえ……。花も添えられていて、なんだか穏やかですね。よく眠れそうです」
「ゆっくり眠れるように供えられているのでしょう。お墓を見るのは初めてですか?」
「はい。存在は知っていましたが。でもなんだか、いいなぁと思います」
「語彙力のない感想ですが、むしろその方が伝わることってあるんですね。勇者さんはこんなお墓がいいとかあるんですか?」
「そりゃもう……。食べ物をいっっっっぱい置いてほしいです」
「死んだら食べられませんよ」
「気持ちの問題ですよ。それを言ったらあの花だって意味ないじゃないですか」
「は、華やかさがほしいでしょう?」
「フルコース料理の方が華やかですよ。匂いであの世から還ってくるくらい」
「おとなしく眠っていてください」
「きらきら輝くお金をたんまり積んで……」
「死んだら使えませんよ」
「舟に乗るのにお金が要ると聞いたことがあります」
「それにしたって金貨一枚で足りますよ。なにも積み上げなくても」
「金貨の重みで土に沈むんですよ。重力埋葬です」
「長く生きてきて初めて聞きましたよ。特殊な埋葬ですねぇ」
「そういう魔王さんは理想の埋葬とかあるんですか?」
「えっ、考えたことなかったです……。うーん、いちごのパフェをお供えしてほしいです。ショートケーキとか、プリンとか、カヌレとか!」
「虫が寄ってきそうですね」
「フルコース料理にも寄ってきますよね?」
「荘厳さが足りませんね。もっと厳かな墓にしなくては」
「えー、楽しい方がいいですよう」
「魔王さんの墓前でこの本を朗読して差し上げましょう」
「いつぞやの小説……。ちゃんと持っててくれたんですね」
「読み終わったら、次は魔王さんの日記を朗読します」
「やめてください。口なき死者に対する冒涜ですよう」
「私との日々は世に出せないくらいくだらないものなのですか。悲しいです」
「そ、そうじゃなくてですね、恥ずかしいんですよっ!」
「日記をしたためる方が悪いのです」
「理不尽」
「だいじょうぶですよ。しっかりお腹から声を出して朗読しますから」
「ふだんそんなことしないのにぃ……。もう、ぼくのことはいいんですよ。勇者さんもフルコース料理とか言ってないで他にお花とか物とか」
「花なら青い花がいい……って、そうじゃなくて、正直な話、私はお墓いらないです」
「どうしてです?」
「この世界に私がいた何かが遺るのがいやなんです」
「またひねくれたことを」
「死んだら死体は欠片も残さず消したいですし、持っていた物もすべてなくなってほしいです。私に関する記録も記憶もぜんぶなかったことになってほしいと思いますよ」
「それは残念ですね。ぼくがいるので!」
「やはりあなたは殺すしかないようですね……」
「こわい。ぼくの誘いに乗った勇者さんが悪いんですよ。魔王の記憶力を舐めてはいけません。えへん!」
「よく魔法の使い方を忘れるくせに?」
「ぎくっ。そ、それはそれです。勇者さんのことを忘れたりしませんよ」
「勇者のことをいちいち覚えているなんて律儀なひとですね。それも魔王の役割なんですか?」
「いえ、ぼくが好きでやっていることです。それに、覚えているのは……」
「なんです? じっと見つめて、気持ち悪いですよ」
「言い方がストレートすぎますう……。もうちょっと、もうちょっとオブラートに……」
「不気味です」
「もうちょい……」
「悪寒がします」
「もう一声……」
「視線が強すぎます。ストーカーの才能ないですね」
「そ、そんなに見てませんよう」
「嘘言わないでください。こんなに強く感じる――えっ」
「どうしました? お墓の方を見て――ひょっ」
「うご、墓が動いて……。魔王さんの仕業ですか!」
「ちちちち違いますよう。ぼくたちがお墓の近くでお話しているので気になって出てこようとしているんだと思います⁉」
「出てこられてたまるかってんですよ。行きますよ、魔王さん。地面の下の誰かさんはそのまま安眠していてください!」
「永眠の間違いでは?」
お読みいただきありがとうございました。
花とか食べ物より推しのグッズをお供えしてほしい天目です。
勇者「さっきのあれ、なんだったんでしょうね」
魔王「もぐらってことにしておきましょう」
勇者「もぐらなら食べてもよかったですね」
魔王「いいわけあるわけないじゃないじゃないじゃないですか」
勇者「バグってますよ」




