648.会話 カーネーションの話
本日もこんばんは。
花ごとにSS書けば一生書いていられます。
「今日は同じ花を持っている人をよく見かけますね」
「カーネーションですか。今日は母の日ですからね」
「なんですかそれ」
「簡単に言えば、お母さんに感謝を伝える日です」
「私には縁のないイベントですね」
「僭越ながら、この魔王、勇者さんの母に立候補を――」
「カーネーションという花はきれいですね。リボンは売っていないのでしょうか」
「雑貨屋さんに行ってみましょうね……」
「ちょっと思ったことがあるのですが」
「はいはい、なんでしょう?」
「魔王さんの母にあたるひとって存在するのですか?」
「まっさか~。いるわけないじゃないですか」
「ですよね」
「ぼくは最初からひとりですよ」
「なんだかさみしいセリフです」
「でも今は? そう! 勇者さんがいるのではっぴー!」
「楽しそうでなによりです」
「ぼくはいつでも楽しくて幸せです。そう、きみがいるから~」
「謎のメロディをつけないでください。歌になった瞬間、攻撃にかわりますよ」
「ぼくからの愛をさらりと受け流す勇者さんもすてきですねっ」
「魔王さんも花になればいいのに」
「えっ? 急にロマンチックじゃないですか。具合でも悪いんですか?」
「失礼ですね。黙っていればきれいなのにって意味ですよ」
「勇者さんも大概失礼ですけどね」
「口を開けばこれなんですもの」
「これとはなんですか、これとは」
「これはこれですよ」
「こら、指でささない。さすなら剣にしましょうね」
「そっちの方がだめだと思いますよ」
「そういう愛の形もあるのかなって」
「今日はやけにさみしいセリフばかりですね」
「ぼくだから耐えられますが、ぼくじゃなかったら耐えられません」
「魔王としての力ですか?」
「魔王というより、長年の経験といいますか。人生ってやつですよ」
「長年ぼっち人生?」
「少し違うだけで、こんなに胸が痛くなるのですね」
「でも、長い時間の中で花を持ってやってきた勇者もいるんじゃないですか?」
「そうなんですよ~! 花束を持ってきた勇者さんがぼくにプレゼントって!」
「ロマンチックですね」
「スノードロップのお花ってご存知ですか? とてもかわいらしいのですよ」
「名前もかわいいですね。ずいぶん関係性が良好な勇者もいたものです」
「ちなみに、スノードロップの花言葉は何か知っています?」
「いいえ。『春の訪れ』みたいな感じでしょうか」
「『あなたの死を望みます』」
「ちゃんと勇者と魔王でしたね」
「ぼく、ちょっと泣いちゃいました」
「かわいそう」
「スノードロップの花束の中に爆弾入っていましたし……」
「切ない」
「メッセージカードには呪いの魔法も書かれていました」
「その花はどうしたのですか?」
「ちゃんと部屋に飾りましたよ」
「私、魔王さんのそういうところ結構いいと思います」
「えっ、勇者さんに褒められた⁉ わあい!」
「今の話を聞いていたら、なんだか花を贈りたくなりました」
「お花のプレゼントですか? 勇者さんがぼくに? 雪でも降るのかなぁ」
「失礼ですね。私だってそういう時はありますよ」
「今はカーネーションがたくさん売られていますもんね」
「こうして見ると、いろんな色があるのですね」
「色ごとに花言葉が違うのですよ。ぼくは白色がお気に入りです」
「へえ、赤色じゃないんですね」
「白のカーネーションの花言葉は『純粋な愛』なんですよ。まさにぼくですね」
「え? あ、うん、そうかもしれませんね」
「なんで目を背けるんですか」
「ちょっと日頃の言動を思い出して……」
「勇者さんを包む布になってよしよししたい、くらいしか言っていませんよ」
「そんな魔王さんに贈るのは黄色のカーネーション」
「きれいですね! ええと、黄色の花言葉はたしか……」
「『軽蔑』」
「あらまあ勇者さんったら冷たい目」
お読みいただきありがとうございました。
四季で花を植え替える人様の花壇を楽しみにしています。
勇者「花言葉とか色々言いますけど、どんな色でもきれいですよね」
魔王「その心を大事にしてくださいね」
勇者「『軽蔑』の花言葉を与えられた黄カーネーションは遺憾の極みでしょう」
魔王「お花の気持ちを考える勇者さんいずぐっど」