647.会話 未確認飛行物体の話
本日もこんばんは。
わくわくする言葉、未確認飛行物体。
「町の人たちが騒いでいたのですが、何かご存知ではありませんか?」
「知らないです。お祭りでしょうか?」
「彼らはこう言っていました。未確認飛行物体を見た、と」
「勇者さんが楽しみにしているテレビ番組ではよく聞く単語ですね」
「白く輝く長い何かを身にまとい、空を優雅に飛んでいたのだとか」
「一反木綿という妖怪に特徴が一致していますね」
「脳を揺さぶられる謎の音楽が聴こえたそうです」
「何らかの攻撃でしょうか?」
「未確認飛行物体が持つ籠の中は、新鮮そうな野菜がいっぱいだったらしいです」
「謎の生き物もご飯を食べるのですね」
「頭頂部付近にはふたつの輪っかが見えたという証言も」
「あれれ? どこかで聞いた特徴ですね」
「神々しい様子に、町では天の使いという可能性が指示されているようです」
「天使ってことですか? でも、基本的に天使は地上に降りてきませんけど……」
「じいっ……」
「な、なんですか? ぼくを見つめるなんて、熱烈ですねっ!」
「今日のお昼ごはんはなんでしたっけ」
「いま食べているじゃないですか。野菜ごろごろシチューですよ」
「買い物は誰が行ったんでしたっけ」
「ぼくですよ。勇者さんはお留守番していたでしょう」
「どこに買いに行ってきたのですか?」
「町の向こうの八百屋さんです。新鮮な野菜が評判だと聞きまして」
「帰ってきた時、なんで窓から入ってきたんですか?」
「それは、天気がよかったので空を飛んできたからですよ」
「町で騒ぎになっていた未確認飛行物体の特徴、もう一度思い出してみてください」
「白くて輝いていて籠の中は野菜でいっぱいで頭頂部にふたつの輪っか?」
「なにか思い当たることはありませんか?」
「そうですねぇ。特にないと言いたいところですが、めっちゃぼくですね」
「天の使いと言われていますよ」
「それについては断固拒否というか、誰が神様の使いだこのやろうって感じですはい」
「聖なる笑みのまま言葉が荒れていますよ」
「すみません、はらわたが煮えくり返る気分になりまして」
「天の使いから最も真逆にいる存在ですもんね」
「というか、ぼくが個人的に神様大嫌いですから」
「笑顔のまま野菜にフォークを突き刺さないでください」
「おっと、ぼくとしたことが。ぱくっとな。おいしくできていますね」
「あとで町の人の誤解を解いた方がいいと思いますよ」
「実は魔王でした~って?」
「信じてもらえないでしょうけれど」
「それこそ、実は聖女でした~の方が通りそうですね」
「ほんとうにそうだったりして」
「いやだなぁ、勇者さん。ぼくは正真正銘魔王ですよ」
「勇者だと思っていたひとが魔王で、魔王だと思っていたひとが勇者だった」
「いつものぼくたちですね」
「そろそろネタバラシをする頃かと」
「なんのですか?」
「実は逆だと思わせて、さらに実はそのままだった……」
「つまり、きみが魔王でぼくが勇者?」
「という物語のオチはいかがでしょう」
「いかがされても、きみは勇者でぼくは魔王なんですよ」
「……いけると思ったんだけど」
「諦めて勇者になってくださいな」
「日頃から勇者辞めたい派の代表である私ですが」
「また知らんものを作り出して」
「魔王さんが人外エピソードを広げるたびにため息が出ます」
「ぼく、何かしましたっけ」
「あなたのせいで、神様の使者はそういうものだと思われるのです」
「勇者といっても、ただの人間なんですけどねぇ」
「魔王さんは魔王だからいいでしょうけど、私は大変なんですよ」
「何か困ったことでも?」
「ちょっと光輝いてくださいと言われたり」
「ちょっと光輝く」
「垂直かつ秒速二メートルで空から降ってきてくださいと言われたり」
「垂直かつ秒速二メートル」
「爆弾のような歌声をもう一度聴かせて欲しいと言われたり」
「爆弾のような歌声」
「無理だと言っても白くまばゆい天の使いにはできたの一点張り。挙句の果てには……」
「挙句の果てには?」
「未確認飛行物体の正体は天の使いだと世間に発表し、超常現象番組に電話するって」
「今すぐ町の人たちに説明してきます」
お読みいただきありがとうございました。
一度は見てみたいです。
勇者「ああいうのは作り物だと知りながら楽しむのです」
魔王「よくできていますよねぇ」
勇者「あ、今日も不思議番組があるみたいですよ。観ましょう観ましょう」
魔王「中には本物もありますけど」
勇者「えっ」