646.会話 ぬいぐるみの話その④
本日もこんばんは。
この間、推しキャラの大きなぬいぐるみを買ったのですが……。
幸福感が凄まじいので超おすすめです。
大きいというだけで超ハッピーです。
「ミソラさん、こどもたちに大人気でしたね」
「ふふん、さすがミソラ。こどもたちもお目が高いですよ」
「得意げですが、こどもたちに囲まれて助けを求める勇者さんもかわい――」
「おや、こんなところにこんにゃくが」
「そうそう、ぬいぐるみといえば、こんな話がありますよ」
「流れるように話を変えましたね。なんですか?」
「大切にされた物には心が宿る……」
「付喪神のことですか?」
「いえ、それとはまた少し違うといいますか」
「……おばけの話じゃないですよね?」
「違いますよ。おそろしいものではなく、すてきなものだと思います」
「それならよいのですが」
「勇者さんに大切にされたミソラさんに心が宿り、とある日のこと……」
「話し方が怪談のそれなんですけど?」
「てれれてってれーん! ミソラさんが人間の姿に!」
「これまた急展開ですね」
「手を伸ばして『やっと逢えたね……』と言ってきたらどうしますか?」
「ミソラなら握りますけど、魔王さんなら少し考えます」
「聞きましたか、人類のみなさん! 『少し』ですって!」
「なんで喜んでいるんですか」
「思考の余地がある時点でぼくはうれしいのです。いつもならスルーですからね」
「だって、魔王さんは手を握らなくてもひっついてくるから」
「えへへ~。あ、普通に迷惑そうな顔ですね。それもかわいいですけど」
「ミソラが人間になるとすると、ひとり分の食事が増えますね」
「ぼくのお財布には、なんてことありませんよ」
「ベッドも必要なので、私は床で寝ます」
「真っ先に『一緒に寝る』という選択肢を捨てる勇者さん」
「季節に合った服も用意してあげたいですね」
「ご自分の服には欠片も興味を示さないのに」
「おいしいものをたくさん食べてほしいです」
「その気持ちを一ミリでもご自分に向けてほしいのですが」
「私はその辺の雑草でいいです」
「なんでそうなるかな」
「そもそも、ぬいぐるみでも食事はできるのでしょうか」
「この場合は人間になっていますからね。可能だと思いますよ」
「いつもと違う食卓になるかもしれません」
「ミソラさんは勇者さんの隣に座ってはいますけどね」
「魔王さんに対してこんにゃくをチラつかせる新たな刺客が」
「穏やかに食事しましょう」
「穏やかといえば、連泊した時にぬいぐるみがベッドに寝ている時がありますね」
「掃除の際のおもてなしですね。ぼくはほっこりするので好きですが」
「初めて遭遇した時は、ぬいぐるみがひとりでに動いたのかと思いました」
「ある時は椅子に座って食事していましたもんね。お皿にはおもちゃの果物まで乗せて」
「私たちが不在の間に自分の時間を楽しんでいるのかもしれません」
「宿泊客へのサービスですね。持参したぬいぐるみでもやってくれるそうですよ」
「ミソラはいつも連れて行ってしまうので、今度置いておきましょうか」
「耐えられますか?」
「……耐えられないかも」
「では、ミソラさんは変わらず勇者さんの手の中ということで」
「ここが一番安心します」
「できればぼくも収まりたいところです」
「にこやかにとんでもないことを言わないでください」
「あ、すみません。羨ましくて」
「まったく……。誰かに聞かれたら事件ですよ」
「そういう時は、ハグで安寧をもたらすと言えば解決です」
「これだから見た目詐欺は」
「ぼく、こどもがぬいぐるみを抱いている光景を見るのが至福の喜びでして」
「笑顔が神聖すぎるな」
「心が浄化され、健康が促進し、若葉が育ち、恵みの雨が降り、世界に光が満ちます」
「効果すごいですね」
「ぼくは思わずにはいられません。ああ、こどもに抱かれるぬいぐるみになりたい――」
「アウトな発言なのに、神々しくて騙されそうになります」
「ぬいぐるみとこどものコンビ、まじ最高」
「血涙でも流しそうな勢いですね」
「永遠に見ていたいです」
「あなたの場合はほんとうにやりかねませんね」
「ぬいぐるみ会社でも設立しようかなぁ」
「いいじゃないですか。どんなぬいぐるみを作るのですか?」
「もちろん、勇者さんぬいですけど」
「推し活もここまで行けば尊敬に値しますよ」
お読みいただきありがとうございました。
最近、魔王さんの言動に安心感を抱くようになりました。あまりにブレないので。
そんなこんなで『魔王っぽい勇者と勇者っぽい魔王』は本日で三周年。
これからもこんな感じでいきますので、どうぞよろしくお願いします!
魔王「毎日勇者さんぬいのことを考えています」
勇者「……本物が隣にいるのに」
魔王「ふえ? 今なにか言いました? すみません、妄想していて聞こえなくて」
勇者「別に何も」




