表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
643/702

643.物語 ➁求めていない別行動

本日もこんばんは。

本人的には隠していた勇者さんの怖がりが遺憾なく発揮されます。

 館を探索しながら、魔王さんはユカリさんから情報を得ようと質問を繰り返しました。

「館の全体図はわかりますか?」

「地上四階、地下二階だと思うわ」

「きみはどこまで行きました?」

「地上は二階、地下も二階までね。でも入り組んでいるし、迷いながらだったから、どこに何があるかは覚えていないの」

「出口らしきものの覚えはありますか?」

 ユカリさんは自信満々に頷きました。

「全くないわ!」

「……そ、そうですか」

 魔王さんは困ったように眉をひそめ、考え込んでいるようでした。

「魔物に出会ったことは?」

「ないわ。君たちが第一村人って感じ」

 それはこちらのセリフといいますか。

「勇者さん、ユカリさん、少し相談なのですが」

 朽ちていない部屋を選び、入ると、魔王さんはそう口にしました。

「ぼくは単独、勇者さんとユカリさんは二人で、別行動をしようと思うのです」

「えっ」

「えっ」

 同じ反応をしてしまいました。別行動って、なぜ。

「地下まであることを想定していませんでした。ゆえに、当初より大幅に探索範囲が広がってしまったのです。このままではあっという間に日が暮れる」

「でも、地下に出口があるでしょうか」

「これだけ大きな館ですから、緊急用の出口は複数あってもおかしくはありません。それに、隠し通路のひとつやふたつ、あると思いますよ」

「まあ、確かに……」

 ふと、魔王さんが言っていたことを思い出します。

「ユカリさん、他に迷子はいませんよね」

「そもそも、ここに入る人がいないわ」

「じゃあ、どかんと派手にやってもだいじょうぶですね」

「どかんと?」

 理解できていないユカリさんをそのままに、魔王さんに向き直ります。

「安全に外に出てから破壊する予定でしたが、こうなったら脱出する時に壊れても大体同じことでしょう。その辺の壁を破り、崩壊する前に外に出ませんか?」

「かなり危険が伴いますが」

「魔王さんならできると思いまして」

「うーん……。わかりま――」

 彼女が答える前に、ユカリさんが「待って!」と声をあげました。

「こ、壊すのは待ってほしいの」

「でも、手っ取り早く脱出するにはこの方法が最適だと思うのです」

「それはわかるけど……」

 歯切れの悪い彼女に、私は違和感を覚えました。

「壊してはいけない理由があるのですか?」

「それは……」

「もしかして、ここに来た理由……とかですか」

 村人は近寄ることもない謎の館。魔物が住むといわれている危険な場所。なぜ、彼女は訪れたのでしょうか。肝試し? 怖がりな人がわざわざ一人で? 意味もなく来るとは思えません。何かしらの理由があるはずです。

「教えてください。もしかしたら、私たちにできることがあるかもしれません」

「…………」

 迷った末、彼女は「実は」と話し始めました。

「私、探し物をしているの」

「この廃墟で……ですか」

「そう」

「何を探しているのですか?」と、魔王さん。

「『幻の青』よ」

 なんでしょう、それ。初めて聞くものです。魔王さんも首を傾げていました。

「どういうものなんですか?」

「青の館にあるとされる、とびっきりのお宝……らしい」

 らしい?

「私も詳しくは知らないんだぁ……、えへへ」

「不確かなもののために、こんな危険な真似をしているのですか」

 驚きと呆れを含んだ魔王さんは、「これだから人間は……」とこぼします。

「まあ、そんなところも愛おしいんですけど」

 静かにしていてください。

「だから、見つけるまで壊すのは待ってほしいの」

「……魔王さん、どうしましょうか」

「うーん……」

 腕を組み、首を左右に揺らしながら考える魔王さん。確実に存在すればまだしも、正体もわからない不鮮明なお宝のために人間を危険に晒すとは思えません。おそらく、諦めるように言うでしょう。

 そう思っていたのですが。

「では、先ほど言ったように、二手に分かれるとしましょう」

「へっ?」

「ぼくは出口と魔物を探す係、お二人は『幻の青』を探す係で」

「ちょっと待ってください。本気ですか?」

 戸惑う私に、魔王さんはそっと近寄ります。

「ぼくひとりの方がある程度自由に動けます。壊せそうな場所を見繕い、出口を作ろうと思うのです。加えて、魔物は見つけたらさっさと倒しておきますので、きみはユカリさんと宝探しをしながら時間を潰してください」

 声はさらに小さくなります。

「物理的に危険な場所に、これ以上長居をさせたくありません。『幻の青』があろうとなかろうと、ぼくには関係のないことですから」

 魔王さんは離れると、「よろしいですか?」と人差し指を立てます。

「宝探しはぼくが出口を見つけるまで。それ以上は待てません。脱出後、この館は破壊します」

「ありがとう、魔王さん。勇者さんも」

「魔物はぼくが対応するつもりですが、もし出会ってしまったら」

「出会ってしまったら?」

「勇者さん、お仕事です」

「うっ……」やりたくないよう。

「老朽化した建物で戦うのは危険ですから、なるべく逃げるようにしてください。最終的に館を破壊すれば、魔物は倒せますから」

「らじゃ……」全力で逃げよう。

「合流する時は大きな声で呼びます。お二人は一階から四階の地上を重点的に探してください。いざという時、外に出やすいように」

「わかったわ」

「それでは、行くとしましょう」

 部屋を出ようとした魔王さんは心配そうに私たちを見ました。

「気を強くもってくださいね」

「どういう意味――ひゃぁっ」

 ま、窓に影が!

「なになに⁉ おばけ⁉」

 部屋の隅に走り出すユカリさん。

「鳥が飛んでいったのだと思います。……はあ、心配だ」

 すみませんね、怖がりで。

「あ、ユカリさん。懐中電灯使いますか?」

 光源を持たない彼女に、予備を渡そうと魔王さんが問いかけましたが、

「ううん、だいじょうぶ。ありがとう」

 彼女は首を横に振りました。

「そうですか。では、これは勇者さんに」

 鞄に押し込まれました。

「お二人ともじゅうぶんに気をつけて」

「はい。魔王さんも」

 ぱたり。扉が閉まった部屋に取り残されたビビり二人。

 どうしようかと考えていると、突然扉が開きました。びっくりしたぁ!

「言い忘れたことがありまして」

「な、なんですか」

「この館、噂があるんですよ」

「なんのですか」

 魔王さんは顔だけ覗かせ、一言、

「幽霊が出る、幽霊館」

 と言い残し、去っていきました。

「…………」

「…………」

「……ユウレイヤカタ、ご存知ですか?」

「いや……、いま初めて聞いたわ」

「……そうですか」

「……えぇ」

 顔を見合わせ、あまりに重い腰を上げました。

「行きましょうか」

「頼りにしてます」

「私ができるのは、魔なるものの対処ですよ」

「すごい! 勇者っぽいね」

「その、お、おばけとかは無理ですからね」

「私も無理!」

 元気そうなお返事です。

「それじゃあ、青の館で宝探し、スタート!」

 怖がったかと思えば、すぐに明るくなるユカリさん。少し不思議な人ですね。わずかに開いている扉の隙間から廊下に出た彼女は、目の前の窓に映った木の陰にきれいな悲鳴をあげました。

「きゃああああああああああ‼」

「……っひ、悲鳴が怖いです!」

「ごめんんんんん! おばけかと思ったぁ!」

「き、木の陰ですよ」

「あぁあぁぁあ~……、びっくりした……」

 私の心臓が跳ね上がりましたよ。

「気を取り直して、何階に行こうか」

「ええと、二階?」

「よし、階段に行こう」

 部屋を出た私たちは、上階に行く道へと歩き出しました。

 ぱたり。背後で扉が閉まる音がしました。建付けが悪い部屋ではありません。風も吹いていません。

「……なんで」

「ん? どうかした?」

「……ああああああの、あの扉、あの、しまっ、ああああもうやだぁぁぁ」

 振り返ることができず、私は走り出しました。一刻も早く遠ざかりたいのです。

「勇者さん、待ってぇぇぇ。急に走り出されると、なんか、怖い!」

「ご、ごめんなさい……!」

 とはいえ、足は止まりません。幸先が不安すぎる宝探し探検隊は、謎の言語を口から発しながら青の館を駆け抜けました。

お読みいただきありがとうございました。

宝探しやりたいですね。見つけるのはそう、札束。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ