639.会話 ワルプルギスの夜の話
本日もこんばんは。
ひっくり返って笑っているイメージです。
「……おや? ふむ、なるほど。今日はワルプルギスの夜でしたね」
「なんですか、それ」
「世界各地によって様々な意味がありますが、ここでぼくが言うのは儀式のことです」
「儀式?」
「春の訪れを待つ魔女たちが夜に集まり、それはそれは怪しい儀式をするそうですよ」
「怪しい儀式……」
「と言っても、それは建前。実際はお祭りで楽しくどんちゃん騒ぐらしいです」
「行ったことがあるのですか?」
「いいえ。招かれた者しか行くことができないお祭りらしく、ぼくは話を聞いただけ」
「どんなものなのか、少し気になりますね」
「想像しているお祭りとは異なるでしょうが、魔女たちの宴です。世にも不思議な世界が広がっていることでしょう。ぼくも行ってみたいです」
「知らない世界……」
「こわいですか? だいじょうぶですよ。なんてったって、ぼくがいますからね!」
「まだ何も言ってませんよ」
「早とちりでしたか?」
「わかりません。こわいかどうかもよく」
「ですが、行ってみたいと思った気持ちは本物でしょう?」
「そうですね」
「では、今はそれでいいのです。ワルプルギスの夜がどんなものなのか想像しましょう」
「たくさんの魔女がいるのでしょうか」
「移動手段はほうきですかね」
「私、飛べません。魔王さんがほうきで飛んでいる姿も見たことありませんね」
「魔族なので、ほうきの必要はないのですよ」
「使おうと思えば使えるのですか?」
「可能だと思います。ハッ、ぼくも勇者さんとほうきデートができ――」
「誰でも使える魔法道具のほうきがあるといいのですが」
「あの、ぼくとほうきデートしま――」
「見渡す限り魔法が存在する空間なのでしょうか。楽しそうです」
「ぼくもほうきデートぉ~……。あぅ~……」
「魔王さんは魔族ですから、『何奴!』と放り出されるかもしれませんよ」
「平気です。上手に隠しますから」
「アナスタシアには見破られていましたけど」
「彼女はちょっとアレというか、ソレというか、なんというか、はい」
「情報が欠片もないですね」
「大体の人は騙せますよ。魔族にすら気づかれません」
「そうですかね? 今まで、割とバレているような」
「そ、そうでしょうか。おかしいですね。擬態能力は高いはずなのですが」
「こんな話をしていると、なんだか任務みたいですね」
「潜入! 秘められた魔女たちの宴の秘密を追え!」
「日曜の夜八時?」
「世界の果てまで追いかけましょうね」
「魔女たちもドン引きですよ」
「泥の中から出現してインタビューするんです」
「逃げ出しますよ」
「四つん這いで後を追い、マイクを突き出すのです」
「ホラー映画ですか」
「ワルプルギスの夜に潜入した主人公たち。しかし、それは罠だった。儀式に必要な生贄に選ばれてしまった主人公たちは、怪しい夜から脱出するべく立ち上がる――!」
「あらすじありがとうございます。よくある展開」
「全米が首を傾げたそうです」
「傾げちゃったかぁ」
「ぼくはよく理解できるのですが」
「私が観ている映画のせいだと思います」
「これが成長ですね、勇者さん」
「若干、申し訳ない気持ちがありますよ、魔王さん」
「B級ホラー映画『ワルプルギスナハと勇者さん』を作るためにも魔女を探しましょう」
「その『と』って、意味が違っていませんか?」
「ラスボスの名前が『ワルプルギスナハ』なんですよ」
「えっ、あ、そうなんですか、へえ……」
「笑い方は『ナーハナハナハナハ』です」
「独特だな」
「南の島の出身だそうです」
「脳内で漢字に変換されましたよ」
「妹の将来の夢は宇宙に行くこと」
「妹がいるのですね」
「こちらも笑い方が独特ですよ」
「一応、聞きましょう」
「ナーサナサナサナサ」
「聞くんじゃなかった」
お読みいただきありがとうございました。
楽しく笑うのは大事ですもんね。
勇者「まだ知らない世界がたくさんあるのでしょうね」
魔王「はたから見れば、ぼくたちの世界もミステリアスですよ」
勇者「蓋を開けたらおしまいですけどね」
魔王「辛辣ぅ」