637.会話 ニワトリの話
本日もこんばんは。
ニワトリといえば、そう、なんですかね。
「やっぱりニワトリが一番適しているかもしれませんね……」
「何の話ですか? 難しいお顔もとってもきゅーとですね、勇者さんっ」
「ニワトリしかいない」
「なぜぼくを見て言うのですか?」
「魔王さんが変なことを言ったらニワトリにつついてもらうのです」
「聞いたことのない使用方法」
「朝は鳴き声で魔王さんを起こしてもらい、卵は朝ごはんに利用させていただきます」
「すごい。ニワトリが一番適していますね」
「毎度毎度、魔王さんを起こすのが大変なのです」
「だからって、ニワトリを勇者パーティーに入れなくても」
「役職には『勇者』を贈呈」
「大抜擢ですね。じゃなくて、ニワトリは勇者になれませんよ」
「手強いねぼすけ魔王さんを起こせる存在はみんな勇者です」
「遠い目をしないでください」
「ほんとに大変」
「いつもすみません。起きていても寝ているフリする時は内心謝っていますよ」
「起きてんなら起きろや?」
「勇者さんの冷たい目がぼくに降り注いでいる時の感覚がたまらなくて」
「やばいひとだ」
「不老不死なのに命の危機を感じ、生きていることを実感するのです」
「くだらないことしないで、さっさと起きてくださいね」
「『まじでめんどくさい』という声のトーンもすてきですよ」
「まじでめんどくさいんですよ」
「散々勇者さんを堪能してから浴びる朝の光と冷ややかな視線に感謝を」
「ニワトリにアホ毛を食べさせよう」
「ぼくのチャームポイントが」
「光輪はエサ」
「ぼくのアイデンティティが」
「魔王さんの布団はニワトリの寝床」
「ぼくはどこに寝ればいいでしょうか?」
「フローリングの床」
「冬は極寒になるやつ」
「寒い時は寝ちゃだめですからね」
「雪山で遭難してるんですか?」
「一晩中、起きていてください」
「寒くて眠くて暗くて冷たいって、何の罰ゲームですか」
「そんなあなたにニワトリを」
「あまり聞かないキャッチコピーですね」
「温めてもらってください。できたら産まれてください」
「蝶に?」
「黄色と青色、漆黒を携えたアゲハ蝶になってください」
「きれいですね。また変化魔法のやり方を忘れましたけど」
「ニワトリに教えてもらったらいかがです」
「魔法が使えるんですか」
「考えたことはありませんか? ひよことニワトリ、見た目が違い過ぎると」
「成長というやつですね」
「絶対途中で別の生き物とすり替わっていますよ」
「謎の生命体がいると?」
「ひよことニワトリの間、そう、ひよりちゃんですね」
「知らん子ですね」
「黄色と青色、漆黒の羽があります」
「蝶じゃないですよね?」
「鳥ですよ」
「ずいぶんカラフルですけど」
「自然界で生きていくためです」
「すぐ見つかるので生きにくい気が」
「自分を囮にして仲間を逃がすのです」
「儚い自己犠牲精神ですが、胸が苦しくなってきます」
「わかります。鳥の胸肉ってパサパサしていて苦しいですよね」
「これからはもっと柔らかくしてから出します」
「水分が持って行かれる」
「ジューシーに仕上げておきますから」
「涙が止まらないってことですか?」
「謎の生命体ひよりちゃんの自己犠牲は泣けますけど」
「存在しない生命体を想って泣いている場合ではありませんよ」
「言いだしっぺがいつも突然冷静になるんですよね」
「ゆで卵のパサパサ具合も気になります」
「あれはコツがあるんですよ」
「誰に訊けばいいでしょうか。ニワトリ?」
「ぼくに訊きましょうね」
お読みいただきありがとうございました。
ニワトリを鳴かせる方法は古事記に書いてありました。
勇者「耳元でコケコッコー」
魔王「鼓膜が破れます」
勇者「想像しただけでやかましいですね」
魔王「勇者さんもダメージを受けているじゃないですか」