635.会話 魔法のランプの話
本日もこんばんは。
特定の人物の願いを叶えてくれるランプの魔王さん。
「なんですか、この不思議な物体は……。怪しいですね」
「……怪しくないですよ」
「なんか小声で聞こえましたね。怪しいな」
「……あ、怪しくないですよ……!」
「放っておこう」
「怪しくないので触ってみてください!」
「普通の声量で指示が飛んできました。仕方がありません。えいっ」
「てれれれ~ん。ぼくはランプの魔神です。何かご用ですか?」
「特に何も」
「なんでもいいですよ?」
「眩しいのでカーテンを閉めてほしいです」
「お任せあれ~。はい、いかがでしょう?」
「すやぁ……」
「この一瞬で寝る?」
「ちょうど顔に陽の光が当たっていたんですよ」
「移動すればいいだけのような」
「魔神とやらの力は凄まじいですね」
「カーテンを閉めただけです」
「いやはや、おみそれしました」
「誰でもできますよ」
「これがこの、なんか不思議な形のその、なんとかという物の力なのですね」
「眠いからか、語彙力の低下を感じます」
「ところで、ランプの魔神ってなんですか?」
「千夜一夜物語のひとつ、『アラジンと魔法のランプ』に出てくるキャラクターです」
「ほほう、魔法道具なのですね」
「あ、これはただのランプです。百均で買いました」
「なんでもあるな」
「すぺしゃるな力があるのはそう、ぼくです」
「魔王なので、ない方がおかしいんですよ」
「もっとお願いしてもいいのですよ? さあさあさあさあさあさあ」
「特に思いつきません」
「欲を言えば、ぼくにしかできないことでお願いします」
「注文が多いですね。激弱魔物を創ってください」
「えっ、いやです」
「魔王さんにしかできないことですよ」
「よりにもよって魔物を創るなんて……、お菓子なら作りますから」
「魔物でお願いします」
「なんでですかぁ……」
「ハエたたきで潰して勇者の使命を果たそうかと」
「いつもやらないのに今日に限って?」
「たまにはね」
「あ、いいこと思いつきましたよ。魔法のランプで魔物退治をお願いすればいいのです」
「勇者である私が頼んで、誰が倒すのですか?」
「ランプの魔神であるぼくですね」
「なるほど。ん?」
「えっへん。あれ?」
「違和感を指摘した方がいいですか?」
「ぼくも気づいたのでだいじょうぶです」
「今、おかしなことを言いましたよね」
「そうですね。魔物を倒すのは勇者さんのお仕事です」
「でも、ランプの魔王さんに頼めば代わりにやってくれる……?」
「閃いたってお顔をしていますが、だめですからね」
「自分から言っておいて」
「すみません、つい」
「解釈を広げましょう。魔法のランプから何かの魔法が出て魔物を倒してくれるのです」
「いいですね。どのような魔法ですか?」
「魔王さんの影分身を呼び出し、代わりに戦ってもらいます」
「それなら……、セーフ?」
「魔王さん本人でなければいいですよね」
「そうですね。首は捻りますけど」
「寝違えたんですか? そういう時はランプの魔王さんに頼んで治してもらいましょう」
「寝違えていませんし、ランプの魔王さんはぼくですよ」
「魔王さん、魔王さん。魔王さんの首を三百六十五度回してあげてくださいな」
「普通は死にますからね」
「治りました?」
「ランプの魔王さんは魔王なので平気ですよ」
「なんだ」
「残念そうにしないでくださいよう」
「使えませんね、この魔王」
「せめてランプと言ってください」
お読みいただきありがとうございました。
あんまり役に立たないランプの魔王さん。
勇者「魔王さんはほんとに魔王なんですか?」
魔王「文句は神様に言っていただきたいです」
勇者「話しかけたくないので」
魔王「それはそう」