634.会話 リサイクルの話
本日もこんばんは。
例のコーナーのお時間です。
「魔族を倒すと魔力の塵になって消える。そして、いずれ新たな魔族となって生まれる」
「そうですが……、どうしました?」
「倒しても倒しても意味がないような気がしまして」
「意味はありますよ。勇者さんが倒したことで、その魔族の被害を止めたのですから」
「あんまり実感がないのです」
「いずれわかりますよ」
「魔力ごと消滅させれば、全体量が減るのでしょうか」
「いえ、まったく新しい魔力が発生するのでむしろ増えるでしょう」
「ええ……、増えるんですか? やる気なくなります……」
「そもそも、魔なるものの魔力とは消えることのない悪意の根源と同義です。世界が存在する限り、魔なるものは生まれ続けるでしょう」
「なにそれ聞いてない……」
「神様から説明がなかったようなので、お待ちかねのこの時間と参りましょう」
「あ、まさか」
「第十回『教えて! 勇者さん』でございます。ぱちぱち~、ぱちぱち~」
「ついに二桁に入りましたね」
「魔なるものは魔力から生まれます。ダメージを与えることで魔力を散らし、倒すのが一般的ですが、散った魔力から新たな魔なるものが生まれます。ここまでよろしいですか」
「環境に優しいリサイクルですね」
「これほど滅びた方がいいリサイクルもありませんよ」
「倒した後に同じ魔族が生まれることってあるんですか?」
「基本的には別物です」
「サイクルはどれくらいですか?」
「解明されていません」
「倒した瞬間に生まれたらやってられませんよ」
「そこまで早くはないと思いますけど」
「魔王さんはすぐ再生するじゃないですか」
「誕生と再生は別の力ですから。ぼくほどの再生力を持つものは他にいませんよ」
「ちょっと待ってください。閃きました」
「突然ですね。なんですか?」
「リサイクルの過程に邪魔を入れればいいのですよ」
「セリフだけだと悪者っぽいですね」
「魔なるものが生まれる前に、聖水が流し込まれるトラップ」
「自動清浄器?」
「こうして、魔のリサイクルを打ち倒すのです」
「言いたいことはわかりますが、現実的には不可能でしょうね」
「なぜですか」
「聖水は大量にあるものではありませんし、魔なるものが生まれる時は感知できません」
「システムにねじ込むのですよ」
「ぼく、勇者さんが『システム』と言うとどきっとしちゃいます」
「どこかの聖女が生贄になって魔なるものを浄化し続けるのです」
「ぼくの動悸が止まりません」
「あとは、生まれる魔族を倒せば解決ですね」
「あのー、ひとつよろしいですか?」
「なんでしょう。この完璧な計画に言いたいことがあるのですか?」
「勇者さんが閃いた方法はリサイクル魔族にしか効果がありませんよ。まったく新しく生まれるものには手の出しようがありません」
「わかっています。だから魔王さんがいるのですよ」
「ぼく?」
「生まれ次第、倒してください」
「それ、勇者さんの仕事ですよね」
「嫌ですよ、めんどくさい」
「サボりはいけません。ほら、また魔物がいますよ」
「私も吸引力の変わらないただ一人の勇者になって魔力を吸い取って倒したいです」
「毒を吸うとは何事ですか」
「勇者の力で浄化し、吐き出すのです」
「取り入れた時点で毒なんですよ」
「勝手に吸収して勝手に浄化して勝手に倒す機械ってないんですか?」
「そんな便利な物、あったらぼくがきみにプレゼントしていますよ」
「魔王さんは魔力を吸収できるのでしょう? 毎回それでいいじゃないですか」
「ぼくにも事情があるのですよ」
「事情? 私情の間違いではなくて?」
「両方です。世界が掃除機のように簡単ならよかったのですが」
「よくわかりませんが、吸収できる時とできない時があるのですね」
「はい。今はできません」
「気持ちの問題ではなく?」
「やる気は満ち溢れているのですけどね」
「殺意のオーラは感じますよ」
「発散できないので、自分の中でぐるぐる回し、増幅させています」
「物騒なリサイクルですね」
お読みいただきありがとうございました。
お忘れかもしれませんが、魔王さんはあんなですが魔族です。
勇者「リサイクルという言葉には肯定的なイメージがあったのですが、なくなりました」
魔王「おのれ魔族」
勇者「特大ブーメランですけど」
魔王「ぐさっと刺さりましたよ」