633.会話 観光地のお土産の話
本日もこんばんは。
意外と深刻な問題です。
「どうして観光地に来ると謎のストラップやハンカチが多いのでしょう」
「手頃な価格かつ地名や特産品を売り込めるからではないでしょうか?」
「ストラップくらいなら、ハンカチくらいならと買うひとは多いでしょうね」
「ぼくもつい手に取ってしまいますよ」
「それが観光地の罠とも知らずに……」
「急に声のトーンを落とさないでください。びっくりしちゃいます」
「魔王さんは罠に嵌ったのです」
「なんのですか?」
「その謎のストラップ、買ってどうするのですか?」
「魔王城の机の引き出しに入れますね」
「ストラップですよ。どこかにつけないのですか」
「こういうの、他にもたくさん持っているので全部はつけられません」
「では、なぜ新たに買うのですか?」
「そりゃあ、勇者さんと観光地に来た記念というか、せっかく来たので?」
「せっかく来たのだから記念に。その気持ちが罠に嵌る理由ですよ」
「そもそも、罠かどうかは考え方次第といいますか」
「大体の場合、訪れる観光地は住んでいる場所から少し遠いところです」
「普段行かない場所を選びますね」
「非日常の世界を味わいながら、見るもの全て新しいとなれば」
「となれば?」
「罠を避けるのは至難の業でしょう」
「観光地はスパイか何かなのですか」
「たかがストラップひとつ。されどストラップひとつ。売り上げに貢献です」
「売れないより売れる方がいいですもんね」
「魔王さんはその贄になったのです」
「観光地がこれからも発展していくためにお金が必要なら出しますよ」
「ストラップ何個分?」
「もうちょっと高価なもので換算してください」
「ダイヤモンド何個分?」
「きみの両手からこぼれるくらい」
「全然わかんないや」
「ちょっとロマンチックすぎましたね」
「求めてないです」
「雰囲気の欠片もないですよね」
「私たちに何を期待しているのですか?」
「誰かの希望になるくらいすてきな物語と心温まる展開です」
「そこになければないですね」
「どこ見て言ってるんですか?」
「この謎のストラップって誰が考えるんでしょうね」
「もう話が変わってしまった」
「考案した人はたぶん三徹しています」
「はやく寝てほしいです」
「へんてこな思考は疲労の証ともいえるでしょう」
「へんてこな捏造物語を考える勇者さんも疲れているということですか」
「そうかもしれません。朝、まったく起きない魔王さんのせいで」
「疲労の原因、ぼくなんですか」
「他にもありますよ。消しても消しても出てくる魔物とか」
「こればかりは仕方がありません」
「毎日毎日東から昇ってくる太陽とか」
「こちらも仕方がありません」
「いつもいつも私の隣で微笑んでいる魔王さんとか」
「仕方がありませんねぇ! はい!」
「はあ………………」
「とても大きなため息をつかれてしまいました」
「それらの疲労から生まれたものがこちらです」
「おや、かわいいうさぎさんの絵」
「へんてこよりかわいい方が癒されます」
「そうですねぇ。うさぎさんの隣に描いてある謎の物体は何ですか?」
「観光地の謎のストラップ枠です」
「へんてこを生み出しているじゃないですか」
「私としたことが……、無意識のうちに変なものを」
「ゆっくり休んだ方がよさそうですね」
「はやいとこ、今日のお宿に行きましょう」
「今日はお部屋に温泉がついているのですよ。奮発しちゃいました」
「源泉かけ流し?」
「そうですよ。あ、ここが本日のお宿です」
「玄関に先ほどの謎ストラップキャラクターがお出迎えしていますが幻覚でしょうか」
「よほど疲れているようですね」
「さすが人気温泉地。従業員の疲労もピカイチです」
「みんなで休みましょうか」
お読みいただきありがとうございました。
この間も変なストラップ買いました。困惑。
勇者「ずっと見ていたら、ちょっとかわいく見えてきたような」
魔王「お疲れですか、勇者さん」
勇者「あれ、私はいま何を……言って……」
魔王「今日ははやく寝ましょうね」