628.会話 養育費の話
本日もこんばんは。
今日も魔王さんは愉快です。
「今月の勇者さん養育費が先月分を超えました」
「えっ。それはごめんなさい……? 養育費? 謝ればいいんですかこれ」
「いえいえ。ぼくは毎月、養育費先月超えチャレンジをしているのです」
「そうなんですか。その前に、養育費について教えていただきたいのですが」
「養育費とは、こどもの監護や教育に必要なお金のことです」
「解説ありがとうございます。辞書的な意味を訊いたのではなくてですね」
「日頃の食費や宿代、勇者さんに着てほしい服のお金やいつか通うかもしれない学費」
「ああー……」
「写真の現像代金や想いを綴るための紙代、等身大フィギュア作成費用や概念グッズ」
「急に雲行きが」
「魔王城にある勇者さん専用ルームの改修費用や魔王オリジナル料理の試作費用など」
「養育費という言葉でまとめていいのでしょうか」
「すべてがきみに帰着するので、養育費で合っています」
「曇りなきまなこ」
「健やかに育ってくださいね」
「あ、はい、どうも」
「ちなみに、未来への投資も欠かせません」
「未来ですか」
「先ほど言った学費や、お店を買う資金、お店を開く資金、勇者さん専用融資資金」
「私はパン屋でも開店するんですか?」
「留学費用や就活費用、さらには結婚費用まで。……ぐすん、結婚、わあん!」
「勝手に妄想して勝手に泣かないでくださいよ」
「勇者さんがお嫁にいっても、ぼくは毎月大量の金貨を送りますからぁ!」
「お嫁にいかないので安心してください」
「それはそれでお母さん、心配なところがあるのです」
「誰がお母さんだ」
「じゃあ、ぼくがもらいますねっ」
「じゃあってなんですか、じゃあって」
「という感じで、勇者さんの養育費はかなり高額なのです」
「食費と宿代だけならもっと安くなると思いますよ」
「それだけになったら、ぼくが死んじゃうじゃないですか」
「知りませんよ、そんなこと」
「勇者さんにお金を使うことが楽しみなのに」
「魔王さんのお金なので私がとやかく言うことじゃないですけども」
「お財布から金貨が減る喜びよ」
「それで喜ぶのは魔王さんくらいです」
「貯めた甲斐がありました」
「ご自分のために使ってくだ――いや、結構自分のためですね」
「魔王城がどんどん住みやすくなっていきます」
「いいんだか悪いんだか」
「学校に行きたかったら言ってください」
「それはちょっと」
「ぼくの転入費用も込み」
「自由に生きている感じがしていいですね」
「勇者さんの行くところにぼくも行くのです」
「花粉?」
「飛んでいった先ですてきに咲きましょう」
「私は芽が出る前に踏み潰されて終わるタイプだと思うのですが」
「そこはぼくが守ります。お金の力で」
「こういう時くらい、魔王の力と言っておいた方がいいと思いますよ」
「今の時代、お金の方が強力なんですよねぇ」
「それでいいんですか」
「恐怖で動かすより、きれいなお金で取引する方が平和ですよ」
「世間に馴染む魔王だこと」
「物々交換も好きですが、金貨のシステムがわかりやすくて」
「物々だと、相手が納得しないと成立しませんもんね」
「便利な時代になったような、ないようなって感じです」
「お金に何か問題でも?」
「たくさんありますよ。人間は賢いですから」
「そうですか」
「問題に立ち向かうためにも、ぼくはお金を貯めるのです」
「まだ貯めているんですか」
「もちろんです。いつ何があるかわかりませんから」
「あ、未来への投資?」
「その通り。今現在、積極的に貯めているのは勇者さんを買うお金です」
「なんですかそれ」
「人身売買の闇オークションにかけられた勇者さんを救うお金ですよ」
「物騒なこと言わないでください」
「危ない人たちを金貨で殴るんです」
「物理的な使い方なんですね」
お読みいただきありがとうございました。
もしかしたら魔王さんの方が変人度が高いかもしれません。
魔王「見てください、お財布から金貨が止まりません」
勇者「直視したくない光景なのですが」
魔王「きれいですねぇ」
勇者「若干こわい」