625.会話 マラソンの話
本日もこんばんは。
マラソンは見ているだけでも疲れます。
「勇者さん、マラソン大会ですって。せっかくなので、僕たちも参加し……ませんよね」
「私の顔を見て言葉を変えましたね」
「『正気か?』という感情を読み取りました」
「伝わってよかったです。誰が好き好んで長距離を走ろうなどと」
「一番を目指すのもよし、完走目指してがんばるもよし、ゆっくり走るもよしですよ」
「走りたくないって言ってんです」
「元も子もないことを」
「疲れるじゃないですか」
「運動は大事ですよ」
「なぜ自分を苦しめてまで人は走るのか、まったく理解できません」
「きっと得られるものがあるのですよ」
「ははあ、わかったぞ」
「何か思いつきました?」
「ドMなんだ」
「こら、勇者さん」
「それ以外に考えられません」
「もう少し考えてください」
「大した景品もないのに何時間も走り続けるなんて変人のすることですよ」
「こらっ、勇者さん」
「走った距離の分だけお金がもらえるならまだしも」
「走る人の数だけ走る理由があるのですよ」
「じゃあ、中にはドMの人もいるんですね」
「可能性は否定できませんけど」
「よおし、インタビューしてみよう」
「こんな理由で勇者さんが人と関わろうとするなんて」
「やっぱりめんどくさい」
「今回ばかりは勇者さんが怠惰でよかったです」
「誰がド変人怠惰の極み乙女ですか」
「そこまでは言っていません」
「私の耳には聴こえましたよ」
「すみません、さすがに幻聴かと」
「まるでいつもの魔王さんのようですね」
「誰が耳鼻科常連客ですか」
「そこまでは言っていません」
「最近は足腰も弱くなってきましてね」
「おばあちゃんじゃないですか」
「健康のためにもマラソンはいいと思うのです」
「今からでも飛び入り参加できるみたいですよ」
「あ、言葉足らずでしたね。勇者さんの健康のために、です」
「私は結構です」
「血行が悪い?」
「遠慮しますって意味です」
「すみません、よく聞こえなくて」
「絶対に聞こえていますよね。耳が遠いフリはやめてください」
「えっ? ええっと、なんですか?」
「その耳、切り落とそうかな」
「物騒ですよ」
「聞こえているじゃないですか」
「見えているんです、ナイフが」
「これは魔王さん専用のゴールテープですよ」
「そんな鋭利なゴールテープがあったらたまりません」
「応援している人間たちも黄色い歓声をあげるでしょう」
「鋭い悲鳴の間違いではありませんか」
「私は給水係で魔王さんにお水を渡しますね」
「おや、ご親切にありがとうございます」
「致死量の百倍の毒が入っている、とっておきのお水」
「そうくると思いました」
「魔王さんが飲まなければ私が飲みます。ちょっと喉が渇きました」
「ぼくが飲みますっ!」
「間違えて他の人に渡さないよう、合言葉も決めましたよ」
「ほお、それは?」
「おい水飲まねえか」
「もしや、激辛じゃないでしょうね?」
「わかりません。飲んだことがないので」
「飲んだことがあったら困りますけどね」
「味見で一口」
「だめです。毒見ならぼくがやります」
「毒味って言われちゃった。ちなみに、お味はいかがですか?」
「パイの味がします」
「おみまいされたようですね」
お読みいただきありがとうございました。
どうもみなさん、くだらないSSでございます。
魔王「ですが勇者さん、きみは長距離いけるタイプですよね」
勇者「そりゃあ、必要ならば走りますよ」
魔王「マラソン大会飛び込み――」
勇者「不必要」