624.会話 夢の国の話
本日もこんばんは。
浦安のアレの話ではないです。
「人にはそれぞれ好きなものがあります。勇者さんがかわいいものやふわふわしたものやもふもふしたものやうさぎさんやぼくを好きなように」
「最後にしれっと混ぜてきましたね」
「大好きなものがある場所を『夢のような』と表現することもしばしば」
「現実見ろってんですよ」
「辛辣な勇者さんがぼくの隣にいることも、ぼくにとっては夢のようにうれしいのです」
「寝言は寝て言ってくださいね」
「棘がありすぎる気もしますが」
「そりゃあ、私の魔法は茨魔法ですからね」
「そういう意味では」
「トゲトゲしながら生きていきます」
「あまり聞かない決意の内容」
「夢の国? 甘ったれたこと言ってんじゃないですよ」
「あ、そういう感じのトゲなんですね」
「夢だって別に幸せってわけじゃないんですから」
「忘れた頃に投下される闇深発言にぼくの心臓が持ちません」
「まだ起きていた方がマシなこともあります」
「もうその辺で勘弁してください」
「このようにして、夢の国に理想を抱くひとをこてんぱんにすることができます」
「理想を抱くことの何が悪いというのですか」
「打ち砕かれた時の絶望を知れ」
「今日の勇者さん、やけに攻撃力が高いですね」
「何言ってんですか。魔王さんの話ですよ」
「ぼくはいつでも理想と手を繋いでいるつもりですが」
「さり気なく近づかないでください」
「あっ、こんなところに理想が!」
「小さい秋みたいに言われても」
「勇者さんのおてて、かわいいですねぇ」
「私は赤子か?」
「繋ぎたくなる気持ちを抑えろという方が無理な話だと思いませんか?」
「どこに向かって問いかけているんですか?」
「果てしなく広がる空に」
「怪し過ぎるので、せめて私に向かって問いかけてください」
「繋ぎたくなる気持ちを抑えろという方が無理な話だと思いませんか?」
「思いません」
「予想していた回答ありがとうございます。悲しい」
「ただ手を繋ぎたいだけで、回りくどい会話をするからです」
「ですが、直球でお願いしても断るでしょう?」
「そうですね」
「もはや安心感すら覚える即答」
「人間大好き魔王さんにとって、この世界は夢の国そのものなのでしょうね」
「至る所にぼくのびっぐらぶをお送りいたします」
「新種の妖怪かな」
「愛する人間たちと同じ空気を吸える喜び……」
「神々しく言っていますが、内容はかなりアウト寄りですよ」
「好きな人と同じ空間にいたいと思いませんか?」
「あなたの場合、範囲が広すぎるんですよ」
「同じく空間、そう、この世界――」
「もうなんでもありですね」
「ひとつ屋根の下なんて、愛しさ溢れて困っちゃいますよう!」
「宿ってなんだっけ」
「実は、いつもどきどきしているんですよ?」
「さすがにそれは、いい加減慣れろとしか」
「愛情が爆発し、宿を破壊してしまったらどうしよう……と」
「物理的な心配でしたか」
「人間が時間と労力をかけて作ったお宿も愛おしいですよね」
「愛もここまでくると厄介ですよ」
「勇者たる者、愛情深くいなくてはいけません」
「私が持つはずだったそれを、魔王さんが全部持って行っちゃったんですね」
「いやですねぇ、愛情に限界はないのですよ?」
「ふうん」
「すごく興味なさそう」
「相変わらず変なことを言っているなと思いまして」
「ぼくからの愛情が伝わりました?」
「あなたがいつまでもゆめうつつということがわかりました」
「まさか、ぼくはばっちりしっかりがっつりおめめぱっちりですよ」
「では、おひとりで起きられますね?」
「あ、待って、あと五分、いや三分だけ寝かせてくだ――」
「はい、朝ですよ」
「ああ、ぼくの夢が……」
お読みいただきありがとうございました。
世界中の人間がうさぎになればいいと思います。
魔王「『夢のような』という表現は、他に『天国』とも言い換えられます」
勇者「魔王さんって天国にいけるんですか?」
魔王「当然のごとく無理ですよ」
勇者「死にませんもんね」