62.会話 サメの話
本日もこんばんは。
みんなのアイドル、サメの話です。
「フカヒレが食べたいです」
「サメ映画を観た感想がそれでいいんですか? さすがに泣くと思いますよ、サメ」
「そうは言っても、食欲に抗うことはできないでしょう。サメだって楽しそうに人間を食べていたのに私は食べちゃいけないんですか」
「その流れだと食人勇者さんになっちゃいますよ」
「人間を食べたサメのフカヒレって、やっぱり味が落ちるんでしょうね……」
「なんで落ちる前提なんですか。サメが楽しそうに食べるのなら、おいしいのでは?」
「味より食感派かもしれません。歯ごたえとか。オプションで悲鳴も付きますし」
「オプションて」
「実際、骨は軟骨みたいなものでしょうね。こりこりしておいしいのかもしれませんし、部位によって肉付きも違って満足感があるのかも。手足は骨の食感が強く、胴体は肉質で脳は蟹みそ人間バージョンとか」
「ぐろい……ぐろいです。やめてください想像しちゃったじゃないですかぁ!」
「想像できるんですね。実物を見たご経験が――」
「き、きっとサメもそこまで考えて食べていませんよう。本能のままに生きているだけでしょうよ」
「私のように……じゅるり」
「よだれ拭いてください。サメ映画観ながら抱く感情間違えていますよ。たぶん」
「『おいしそう』じゃないんですか?」
「『こわい』だと思いますよ。そりゃあ、人それぞれですけど、製作者は恐怖を与えることを目的にしているはずです。パニックやホラーに分類されていますし」
「グルメ映画じゃないんですか……⁉」
「そんな驚く顔できたんですね。そっちの方が驚きですよ」
「この映画いいですね。サメがとんでもなく巨大でおもしろいです」
「大きいとそれだけでこわく思えますからね。サメと組み合わせるのは良い案です」
「さぞかしフカヒレも大きいでしょう……!」
「……ちょっと予想はしてました」
「これだけ大きいと何人前になるのか……。フカヒレでフルコースが作れますよ」
「その前に捕獲が大変そうですけど」
「お任せください。私の全力で仕留めます。巨大フカヒレは私のものです」
「過去になくやる気に満ちた勇者さんが……。ですが、これはフィクションですよ。現実にこんな大きなサメはいないかと」
「フィクション作品の登場人物がフィクションとか言うの滑稽ですね」
「ツッコみづらいのでやめてもらっていいですかね」
「サメの能力ってすごいんですねぇ。感覚器官が優れているとかなんとか」
「映画用に脚色しているでしょうけど、たしかにすごいですよね」
「数キロ先の血もわかるらしいですよ」
「映画の知識を鵜呑みにしてはいけませんよ。あくまでフィクションですからね」
「でも、目の前に垂らしたらさすがにわかるでしょう?」
「それはそうでしょうけど……って、どうしてぼくを見ているんです?」
「実験してみたくないですか?」
「頷くと思います?」
「思いませんけど、私がやるわけにもいかないですし」
「危険ですからね。絶対やっちゃだめですよ」
「魔王さんは不老不死ですし、いいかなって」
「好奇心のフリをしてぼくを殺しにきてますよね」
「サメに負ける魔王とかつまらないので死なないでくださいね」
「生存を願う理由がひどい」
「近くに手頃なサメはいませんかね?」
「今日泊まっている宿は山にあるんですよ。サメは海の生き物です」
「移動するのもめんどうなので、何かで代用しましょう。イカとか」
「それも海の生き物ですね。ところで、なぜイカなのです。サメとは似ても似つかないのに」
「代用イカがいると聞きました」
「ダイオウイカですね、それ」
「似たようなもんでしょう」
「すべてにおいて間違ってますね」
「うーん、凶暴ならサメみたいなもんですよね。じゃあクマで」
「たしかにクマも危険ですけど……。サメとは違うんじゃないでしょうか?」
「なに言ってるんですか。泳ぐクマを見ましたよ。海の生き物でしょう、あれ」
「それ、何色でした?」
「白です」
「シロクマは泳ぎますがクマなので陸の生き物ですよ」
「何が違うのかわかりません。サメもイカもクマもぜんぶおんなじでいいですよ」
「よくないですよ」
「結局のところ、全生物にフカヒレがあればいいんです」
「そんなまとめ方あります?」
「魔王さんもフカヒレ付けたらいいですよ。きっとみんなに愛されます。これどうぞ」
「ありがとうございます――ってこれ、フィンじゃないですか」
「ちゃんとヒレですよ。足ヒレですけど」
お読みいただきありがとうございました。
トンデモサメ映画はくだらないのについ観てしまいます。この物語もそういう作品になれたらいいなと思います。
勇者「B級小説ってことですか」
魔王「それはそれでアリですね」
勇者「くだらないレベルの頂点に君臨したいです」
魔王「勇者さんならできますよ」
勇者「遠回しにディスってます?」




