619.会話 社長の話
本日もこんばんは。
息をしているだけでお金が支払われてほしいです。
「勇者さんが社長になったら、どんな会社を作りたいですか?」
「三百六十五日休み」
「安定ですね。いや、不安定なんですけど、安定ですね」
「倒産タイムアタックしたいです」
「勇者さんなら成し遂げられますよ」
「不名誉な信頼を感じる」
「ぼくが社長になったら、人間たちが幸せに働ける環境を作りたいです」
「怪しい」
「ど、どの辺が⁉」
「まず、魔族が社長という点」
「それはどうしようもないです」
「そして、具体的な例を挙げていない点」
「これからご説明しますよ。いいですか、充実した福利厚生、豊富な休暇の種類」
「ふむふむ」
「新築でセキュリティ万全の社宅、三ツ星シェフによるワンコイン社食」
「羨ましい」
「ボーナスは一年目から支給され、お祝い金も出ます」
「なんてことでしょう」
「最後にとっておき、ぼくとのツーショット写真が撮れます」
「なにそれ不要」
「これはぼくが社員のみなさまにお願いするものです」
「社長が頼むパターンなんですね」
「写真一枚につき、金貨一枚の手当が出ます」
「破格すぎる」
「月に一度、社員との写真をアルバムにして社内広報紙に掲載するのです」
「配られてもすぐ雑紙にされるやつ?」
「一人ひとりにぼくからのコメントつき」
「良心がある人は捨てる時に躊躇しそうですね」
「ちなみに勇者さんは?」
「まず受け取りません」
「ガードがお堅いことで」
「資源がもったいない」
「環境に優しく、ぼくに厳しい勇者さん」
「過度なスキンシップは社員のモチベーションを下げますよ」
「ぼくのモチベーションは上がりますよ?」
「いつだって上司と部下の間には溝があるものです」
「それを埋めたいから写真を撮りたいのですが」
「若手の退職を防ぐためにバーベキューや飲み会を開催する中間管理職くらい甘いです」
「勇者さんの視線が鋭いです」
「いいですか、魔王さん。人間がほしいもの、それは」
「それは?」
「お金です」
「金貨ならこちらに!」
「朝礼で抱負を言ったり毎月スキルアップのために行動目標を書いたりするくらい甘い」
「勇者さん、会社で働いたことありませんよね?」
「そんなことしたって特に意味はないですし、地味にストレスが溜まるだけです」
「ぼくはなぜ怒られているのでしょうか」
「どうせやらせるなら、会社の経費で資格勉強をさせろってんですよ」
「資格勉強ですね。福利厚生に取り入れましょう」
「そして、得た資格を手に次の職へ」
「ぼくのことは遊びだったって言うんですか! わあん!」
「世の中、甘くないんですよ」
「毎月新作スイーツの試食会を開くのに!」
「味覚的な意味じゃなくて」
「五十パーセントオフクーポンだって月初に配布しているのに!」
「お財布に優しい」
「ポイントを貯めればお好きなセットが無料で食べられるのに!」
「ちりつもの力」
「魅力を感じたらいつでも面接に。お問い合わせは0120――」
「嘆くふりをしながら求人しないでください」
「勇者さんもいつでも歓迎しますよ」
「そもそも、そんな会社ないでしょうに」
「必要ならば作ります。いま」
「目がマジですね。ちなみに名前は決まっているんですか」
「株式会社マオーサンはいかがでしょう」
「何をする会社なんですか」
「世界の平和と安寧を目指し、人間によりよい暮らしを提供する」
「おっと、怪しい感じ」
「インフラ整備の会社です」
「いつもお世話になっております」
お読みいただきありがとうございました。
空から札束が降ってこないかな。
魔王「そういえば勇者さん、ご存知ですか」
勇者「なんですか?」
魔王「社長や役員には、労働基準法が適用されないのですよ」
勇者「なんてことだ」