615.会話 シールの話
本日もこんばんは。
使う場所もないのに百均でシールを買ってしまいます。
「おやおやおやおやおやおや、何をじっと見ているのですか?」
「見ないでください。見るなら許可を取ってください」
「見てもいいですか?」
「だめです」
「許可の意味とは」
「の、覗かないでください。ポリスメンに通報しますよ!」
「ポリスメンて」
「こっち来ないでくださいってば」
「いいじゃないですか。着替えシーンでもあるまいし」
「着替えは見られてもどうでもいいです」
「そこは恥じらってほしいのですが、おや、何か落ちましたよ」
「えっ」
「はい、どうぞ」
「……ありがとうございます。見ましたか?」
「ばっちり見ました。かわいいシールですねぇ~~」
「はあ……。こうなったら仕方がありません。首を落とさせてください」
「大体は観念して説明する流れなんですけどね、首を落とすのですね」
「リラックスしてくださいねー」
「できるわけないじゃないですか」
「息を吸ってー、止めてー、止めてー、止めてー、止めてー、永遠に」
「恐怖のリラクゼーション?」
「落ち着けたようですね」
「勇者さんがシールを眺めているのを見ただけなのに首を落とされそうになるとは」
「な、眺めていただけではありません。どこに貼ろうか考えていたのです」
「そんなに深く考えなくてもいいと思いますよ」
「でも、一枚だけですから」
「ぼくがいくらでも買ってあげますが、そういう問題ではないことくらいわかっています。それはヤブさんからもらったものですね」
「はい。大事にとっておいたんですけど、眺めているだけというのも、と思って」
「ミソラさんはふわふわし過ぎて貼れる場所がありませんね」
「よく目にする場所の方が、気分が上がると思ったのです」
「うんうん、その通りです」
「大剣のグリップ部分に貼ろうかと」
「本気で言っています? 武器をデコるタイプの少女戦士なんてヘキヘキのヘキですよ」
「デコ……、なんて?」
「厳つい武器を使いながら、ケースやワンポイントにシールやイミテーションの宝石が散りばめられている様子は見た者の精神をばぎゃーんと破壊するとされています」
「そうですか。大変なんですね」
「ぼくの精神も攻撃されたところです」
「まだ貼ってもいないのに」
「貼ろうかなと思うことすらもう……、もうね……」
「相変わらずお元気そうで」
「ちなみにぼくは、勇者シールを日記帳やスケジュール帳に貼っています」
「勇者シール?」
「世間の皆さまが想像する勇者関連の絵をシールにしたものです。百均で買えます」
「庶民的な魔王さん」
「絵本のようなタッチがかわいいんですよう~」
「あ、ほんとだ。かわいいですね」
「一応、魔王のシールもあるのですよ」
「これもかわいいです」
「ぼくのことをかわいいとおっしゃいました?」
「絵本風シールの魔王をかわいいと言いました」
「広義的にはぼくってことですよ」
「いや、違――まあ、いいです、それで。めんどうなので」
「わあい、粘り勝ちです」
「それにしても、あちこちシールだらけなのですね」
「紙なら剝がれにくいので、ついつい貼ってしまうのです」
「紙ですか」
「あと、目印にもなっていいですよ」
「なんのですか?」
「例えば、勇者シールを貼るところには勇者さんとの思い出。星のシールのところにはエトワテールでの思い出が綴られています。一目見ただけで、これまでの旅を思い起こす目印であり、彩りを与えてくれるものなのですよ」
「ここは勇者と魔王が並んでいますね」
「ぼくたちが出会った日ですから」
「壊滅的な絵を描く魔王さんでもシールを使えば思い通りにできるようですね」
「大変助かっております」
「真似しても?」
「もちろんです。あ、でも、何か貼るものは持っていますか?」
「はい。ぴったりの真っ赤なものが」
お読みいただきありがとうございました。
おそろしい場所、百均。
魔王「ところで、シールがほしいならぼくが買――」
勇者「いえ、特には」
魔王「では、勝手にプレゼントさせていただ――」
勇者「だいじょうぶです」