612.会話 読み聞かせの話
本日もこんばんは。
前話の続きのようなSS。
「図書館で本を借りてきたので、寝る前に読み聞かせをしましょうね」
「いくつだと思ってんですか」
「ぼくからすれば、まだまだ生まれたてですから」
「生まれたてに読み聞かせは効果があるのでしょうか」
「きっとたぶん絶対おそらくばっちり少し辛うじてあると思いますよ」
「気持ちだけ伝わりました」
「さて、何を読んでほしいですか?」
「いや、自分で読みますけど」
「そう言わずに、ぼくに読ませてくださいよ」
「詰め寄らないでください」
「シンデレラはどうですか? 白雪姫、赤ずきんちゃん、三匹の子鵺もいいですよ」
「どれも知っているお話で――三匹の子鵺?」
「絵本がいやなら、小説を読みましょうか」
「あの、三匹の子鵺って一体」
「これはどうでしょう。『世界の不思議を大発見! したかったなぁ』」
「発見できていないじゃないですか」
「すべての人が成功するわけではない世の中を赤裸々に書いた物語です」
「世知辛い」
「内容は厳しいですが、かわいらしい絵を交えた穏やかな本ですよ」
「温度差で風邪をひきます」
「では、こちらにしましょう。『山菜散策大捜索~毒草探偵ヒガンバナ~』」
「のんびり自然系なのかミステリーなのか、はっきりしてください」
「毒の効かない体質の主人公が、毒草を使った殺人事件を鮮やかに解決する探偵小説ですよ。食用と毒草の見分け方も学べる、為になる一冊です」
「娯楽と教養を一度に身に付けられるのは、旅人にとって最適じゃないですか」
「はい。内容によっては購入も検討しています」
「あと、ちょっとおもしろそうです」
「さっそく読み聞かせしてあげましょうね」
「いや、自分で読みたいです」
「昔むかし、あるところに……」
「嘘でしょ? 探偵小説でその出だしなの?」
「おじいさんとおばあさんはいませんでしたが、毒無効の探偵がおりました」
「冗談みたいな文ですね」
「探偵はひもじく、食べ物がなかったので誰も食べない毒草を食べて過ごしていました」
「他人事とは思えない」
「ある日のこと、朝ごはんを探しに出かけた探偵は、道の途中で死体を見つけました」
「びっくりどっきりこんにちは」
「死体の様子を見るに、どうやら毒草を食べて死んだようです」
「それ以外があるなら物語は破綻しますよ」
「食べかけの毒草を拝借し、もぐもぐ」
「食べるな」
「お腹を満たしながら、探偵は犯人を捜すことにしました」
「探偵が一番こわい」
「なんやかんやあって」
「そこが一番重要では?」
「探偵は犯人を見つけました。お礼にもらった金貨で、その日は山菜を食べました」
「草以外を食べろ」
「こんな感じで」
「どんな感じ?」
「鮮やかに事件を解決する物語のようです。これは買いですね」
「不要です。ちっとも知識が得られないじゃないですか」
「今、読んだのはお試し冊子です。本編はここからですよ」
「そうなんですか。よかったです。まるで絵本のようでしたから」
「内容はとても簡単にしてありましたが、挿絵は本気です」
「どれどれ……、グロい。なんですか、このリアルな絵は」
「毒草で死んだ人をモデルに描いたらしいです」
「いらんところでリアリティを追求するな」
「作者曰く、野山に入ると死体が結構あるのだとか」
「他に知識を使うところがあるでしょうに」
「眠る前の読書としては、どきどきしちゃって逆効果ですね」
「毒草を食べる探偵より作者の方がこわい稀有な小説でした」
「もっと穏やかなものにしましょう」
「他には何を借りてきたのですか?」
「絵本や小説、図鑑や論文などです」
「多種多様ですね」
「お好きなのがあれば言ってくださいな」
「これにします」
「早いですね。なんですか?」
「『こどもが泣いた! 親が頭を抱えた! 作者が筆を折った! 世界のB級映画特集』」
「寝る気がないですね?」
お読みいただきありがとうございました。
天目幼少期、トラウマまっしぐらの絵本を読み聞かせられたおもひで。
勇者「ページをめくる手が止まりません」
魔王「寝てください」
勇者「おもしろい。たのしい。目が冴えてしかたがない」
魔王「寝てください」