611.会話 図書館の話その➁
本日もこんばんは。
その①は第81話です。いにしえ。
「今日は調べものがあって、ちょっと図書館に寄らせてくださいな」
「いいですよ。久しぶりですね」
「前に来た時、まだ勇者さんは字を読めませんでしたね」
「もうばっちりです。ここにある本、全部読んでやりますよ」
「すばらしい心意気です。何冊あると思ってんですか」
「五億冊?」
「そんなにないですけども」
「魔王さんは調べものでしたっけ。じゃあ、私はテキトーに何か読んで待っていますね」
「ありがとうございます。せっかく図書館に来たのですから、普段読めない本とすてきな出会いをすることを祈っておりますよ」
「さっそく本を――って、なんですか、これ」
「見覚えのある名前がでかでかと……」
「竹中かぐやコーナーですって」
「なに……? かぐやさん推しなの、この図書館……?」
「こんなに本が出ているのですね。知りませんでした」
「ことごとく網羅しているし……」
「すごい。全部初版ですよ」
「ガチ勢でもいるのでしょうか」
「すべての本が数冊ずつ用意されています」
「ひとりが借りても誰かが読めるように配慮されているのですね」
「貸出ランキングという紙が張り出されています」
「全部かぐやさんじゃないですか。このランキング、意味ないですよ」
「大人気ってことがわかりますね」
「いいことですけど、他にも本はたくさんあるのですよ」
「おもしろいと思える本に出会えたなら、それは幸せなことなのでしょう?」
「ぼくはそう思いますよ」
「それなら、貸出に書いてある数の分だけ、幸せがあったということです」
「いいこと言うじゃないですか、勇者さん」
「私も幸せになろうっと」
「何を読むのですか?」
「特に気にせず手に取ったのですが、『隣の客はよく柿食う客だが私は梨を食う』です」
「一旦、棚に返しましょうか」
「何を食べたっていいと思います」
「そうですね。他の本にしてください」
「じゃあ、これにします。なになに、『家政婦のウサ』」
「返却してください」
「家政婦として働いているうさぎのウサが、家庭内の問題を解決したりしなかったりするコメディ作品。鋭い耳で会話を聞いたり、キックで悪者退治したりする……と」
「返却で」
「次に取った本を読みます。これだ」
「タイトルはなんですか?」
「『解かれし包帯の謎~帝国逆襲編~』です」
「ああ、以前シリーズ化して人気を博した『ミイラ取りがミイラになった⁉~全人類ミイラ化まで残り三日になりました~』のスピンオフですよ」
「スピンオフ?」
「外伝だと思っていただければ。主人公があの坂東なんですよ」
「えーっと……………………、あぁ、いましたね、坂東」
「思い出せてよかったです」
「でも、確か敵でしたよね?」
「はい。しかし、スピンオフでは味方となって協力する展開なのです」
「へえ。自分でも興味を持っているのかどうかわからない感じです」
「あまりネタバレしたくないので濁しますが、坂東と帝国が争うのですよ」
「ここから読んでも楽しめますか?」
「もちろんです。ですが、せっかくならミイラ取りシリーズから読んでほしいです」
「知らないうちに長いシリーズになっていますね」
「こちらは完結済みです。全四十三巻ですよ」
「長いな。長いな?」
「そうそう、今度映画になるそうですよ」
「ほんとですか。すごいですね」
「見てください。案の定、映画の告知ポスターが貼ってありますよ」
「わあ、B級感がすごい」
「かぐやさんがB級映画にしてほしいと頼んだそうです」
「なぜですか?」
「その方が喜ぶひとがいるらしく」
「そんなひとがいるのですか? 物好きですね」
「ほえ……」
「なんですか、その目は」
「いえ、どの口がおっしゃっているのかと思いまして」
「なんでもいいですが、調べものは終わりそうですか?」
「いやぁ、まったく」
お読みいただきありがとうございました。
図書館に行きたいですが、図書館に行くまでがめんどうです。詰み。
勇者「自分の興味関心にかかわらず本に触れられる環境はおもしろいですね」
魔王「勇者さんがまともなことを言っている?」
勇者「賢くなっちゃったかも」
魔王「本、逆さまですよ」