608.会話 お城の話
本日もこんばんは。
高所恐怖症の人はお城に住むのは難しいでしょうね。
「物語に出てくるお城に憧れはありますが、実際に住むのは大変そうですね」
「そんな時こそ、リノベーションした魔王城ですよ」
「住みやすい魔王城ですか。脳が混乱しますね」
「いつでも歓迎します。勇者さん、人間、人間、人間の方々を」
「歓迎対象が大間違い」
「この世に存在するお城の中で、最も住みやすいと自負しておりますよ」
「長年を過ごした家ですもんね」
「ぼくは床でいいです」
「なんで突然冷めるかな」
「魔王城は人間にとってパラダイスのような居住空間でしょう」
「主が床で寝てるのに?」
「えっ、添い寝してくれるんですか?」
「まさか、それを見越して床で……」
「かわいそうなぼくを憐れんでベッドを提供してくださるなんて、勇者さんってば!」
「あ、じゃあ、私が床で寝ます」
「ぐぅぅぅぅぅ!」
「雨風しのげるだけでじゅうぶんですから」
「ま、待ってください。ほんとうにいいのですか? 最高級のお布団ですよ?」
「ミソラだけ寝かせてあげてください」
「そんな勇者さん……。抱き枕を買ったものの大きすぎて一緒に入ることができず、抱き枕をベッドに寝かせて自分は床で寝るタイプの人間ですか……」
「例えが細かいな」
「今一度、しっかりと考えてください。勇者さんとミソラさん、ベッドで寝るのは?」
「ミソラ」
「なんで即答」
「魔王城とはいえお城でしょう? ミソラに似合うと思いまして」
「勇者さんは勇者さんです」
「そうですね。なんですか?」
「勇者さんといえば、そう、お城ですね」
「強引だ」
「そして、勇者といえば魔王」
「まあ、うん、対の存在ですから、それくらいの強引は許容です」
「魔王といえば、そう、魔王城ですね」
「私の知っている魔王は、そんな感じはしませんけど」
「魔王といえば、魔王城ですね?」
「ああ、はい、どうぞ」
「つまり、勇者さんは魔王城のプリンセスです」
「もはや強引でもなんでもない結論ですね」
「一緒に暮らしませんか」
「あ、そのセリフ聞いたことありますよ。王子様がお姫様に言った言葉です」
「では、ぼくは王子様です」
「乗っからないでください」
「ですが、勇者さんはお姫様なので、つまりぼくは王子様ですよね?」
「当然のような顔で言われると『そうですね』と言っちゃいそうでこわい」
「魔王と勇者をやめて、王子様とお姫様になりますか?」
「物語の破綻」
「勇者と魔王の物語など、他にいくらでもあります。世は姫と王子ですよ」
「姫と王子の物語もいくらでもあるでしょうよ」
「えっと、では、モブとラスボスはどうでしょう」
「魔王さんは魔王なので、ラスボス役も簡単ですね」
「何を言っているのですか。ラスボスは勇者さんですよ」
「ええー、嫌です」
「舞台はあの魔王城をお貸しします」
「妙に住み良い、あの?」
「はい。顧客満足度ナンバーワンの、あの」
「でも、戦いの場なら他の場所でもいいと思いますよ」
「勇者さんは知らないようなのでお教えします」
「急に改まってどうしました」
「いいですか、勇者さん。お城を出すだけでそれっぽくなるのです」
「それっぽく」
「壮大さ、ファンタジー感、維持費、物語の奥深さ、待ち受ける運命への期待……」
「途中、現実が入りましたね」
「画面の中央にお城をどーんっと置くだけで、勝手に誰かが想像してくれるのですよ」
「人任せだ」
「困った時はお城に相談。年中無休。フリーダイヤルはこちらから」
「便利屋?」
「顧客満足度ナンバーワン」
「ここに繋がるのですね」
「魔王城にようこそ」
「あ、これいつもの勧誘だ」
お読みいただきありがとうございました。
せっかく存在するのに全然登場しない魔王城さん。
魔王「ですが、ほんとうに住みやすいと思いますよ」
勇者「リノベーションって大事ですね」
魔王「徒歩十分圏内に公園や病院、商業施設の建設も予定しています」
勇者「好立地好条件魔王城?」