603.会話 すれ違いの話
本日もこんばんは。
言葉遊びSS。
「ぼく、お菓子の家を作りたいです」
「おかしな家ですか。あなたも変なことを言いますね」
「前から作りたいと思っていたのです」
「具体的にはどのような?」
「それはもう、夢とロマンとあれとそれとこれを詰め込んだ家ですよ」
「全然具体的じゃない」
「勇者さんもきっと喜ぶと思います」
「そうでしょうか」
「目を輝かせることでしょう」
「目を逸らすと思いますよ」
「甘い香りに誘われて、たくさんの人がやってきたりして……、えへへ……」
「人間を喰らう家ですか。魔王っぽいですね」
「見た目はとってもかわいいですよ?」
「視覚から得られる情報は重要です。まず警戒心を解くのですね」
「次に胃袋を掴んじゃうのですっ」
「壁から手でも生えてくるのでしょうか。おかしな家というより恐怖の家です」
「えっ、こわいですか?」
「どう考えても恐怖ですよ」
「まあ、確かに、某童話でも魔女を倒すために使われましたからね」
「魔女討伐が行われる家なんですか。いよいよ物騒です」
「ぼくの場合は、安全のため、危ない物は置きませんよ」
「危険人物代表みたいな存在が何か言っている」
「そもそも、お菓子の家なのです。食べても転んでも遊んでもいいのですよ」
「家と遊ぶというのは一体。まさか、自我を持って動くとでもいうのですか」
「お望みならば動かしますよ」
「なるほど、魔王はそんなこともできるのですね」
「ぼくの培った技術を生かせば、生命力を感じるお菓子の家になるでしょう」
「生きている家……。おかしすぎる……」
「いつでも誰でも歓迎します」
「入ったら最後、二度と出られないやつですね。映画で観たことありますよ」
「満足したら帰っていただいて構いませんよ?」
「おかしな家が満足するって、どんなおそろしいことをされるのでしょう」
「やっぱり『おいしい』と言ってもらう、でしょうか?」
「『おいしい』と言う……⁉ 五体満足で帰れないんだ……」
「五臓六腑に染み渡る甘みをご提供するつもりです」
「家の中から被害者の悲鳴が聞こえてくるのですね」
「ぜひとも歓声をあげていただきたいです」
「聞いた者の精神をおかしくさせるという、あの……?」
「はい。驚異的なカロリーに怯えながらも止まらない手が次のお菓子へ……」
「終わりのない道を歩いて行くのでしょう」
「そうですね。お帰りは徒歩の方が運動もできてよいかと」
「真っ暗な道なのです」
「ランタンをお渡ししますよ」
「被害者の魂で灯した?」
「作る過程で出た食材をくり抜いて制作したものです」
「なんてことでしょう。くり抜かれるのですか」
「それはまあ。ペーストして作るものも用意するつもりですから」
「ペーストされるのですか」
「しますよ。その方がおいしくなりますし」
「想像したら大変なことになりました」
「わくわくしますよね」
「これ以上、先を考えることはできません」
「あんまり鮮明に思い浮かべると、お腹がすいてきますもんね」
「逆だと思いますけど」
「ええっ、ほんとですか? あ、勇者さんは作る過程を見ていないからでしょうか」
「見たくないですよ」
「いい勉強になると思うのですが」
「勉強してどうなるのですか。私は人間ですよ」
「だからこそです」
「魔王さんが魔王みたいなことを言っている」
「ぼくはいつもと同じすぺしゃるきゅーとな博愛魔王ですよ?」
「何を言っているのですか。人間ホイホイ恐怖の家を使っておびき寄せ、捕まえた人間をくり抜いたりペーストしたりして食べるのでしょう?」
「へっ? 何の話ですか? さては、また変な映画でも観たんでしょう」
「違いますよ。あなたが自分で言ったことではありませんか」
「ぼくはチョコレートやマシュマロ、クッキーなどでお菓子の家を作りたいと思って」
「お菓子の家? 魔王の尊厳を取り戻すびっくりどっきりおかしな家じゃなくて?」
「んもう、勇者さんったら。ぼくに魔王の尊厳など最初からありませんよ」
「それもそうでしたね」
「ちょっとは否定して」
お読みいただきありがとうございました。
あまり上手く書けませんでした。精進します。
勇者「お菓子の家ならぜひ」
魔王「やっとご理解いただけましたか」
勇者「おかしな頭は魔王さんだけでじゅうぶんです」
魔王「勇者さんに言われたくないです」