602.会話 マカロンの話
本日もこんばんは。
ホワイトデーなので、それっぽいようなぽくないようなSSです。食べ物の話です。
「今日のおやつはマカロンですよ~」
「懐かしいですね。甘くておいしかった記憶があります」
「その記憶を上書きしようと思いまして」
「急に空気が変わりましたね」
「食に関するあれこれはぼくによって成されたいのです」
「ご自由に、としか」
「それ以外にも、今日はマカロンを渡すのにぴったりの日なのですよ」
「そんな日があるのですね。カラフルな雲でも出るんですか?」
「かわいらしいですねぇ。採用します」
「いえ、別にあの、間違っているのならそう言ってほしいのですが」
「ぼくにとっては正解です」
「ああ、特殊な世界で生きていますもんね」
「では、お好きなように食べてくださいな。たくさん用意しましたよ」
「黄色、緑色、朱色、青色、紫色。ほんとうに色鮮やかですね」
「マカロンに込められたものをご存知ですか?」
「砂糖でしょうか」
「あ、はい、正解です。そうですね、砂糖……ですね」
「魔王さんもにっこりの甘いお菓子ですよね」
「はい。ですが、ぼくが一番好きなのはきみの笑顔ですよっ」
「いただきます」
「華麗なスルー」
「うん、甘いです。そういえば、実際にマカロンを食べるのは初めてですね」
「お腹にたまらないマカロンなど、マカロンにあらず!」
「なんで敵対心を燃やしているのでしょうか」
「ぼくが勇者さんにマカロンを渡すことが大事なのです」
「なら、尚のことメラメラする必要はないと思いますよ」
「それとこれとは話が別というか」
「めんどくさいですね」
「すてきな甘さ。繊細な脆さ。多種多様な色。まるで人間のように愛らしい……」
「マカロンのことを人間だと思っているのは魔王さんだけです」
「この朱色のマカロンなんて勇者さんそっくり」
「眼科をおすすめしますよ」
「食べちゃいたいです」
「魔王さんもどうぞ。たくさんありますし、ひとりでは食べ切れませんから」
「勇者さんマカロンをいただいてもよろしいと?」
「名前だけ変えてほしいですね」
「失礼しました。びっぐらぶマカロンでいかがでしょう」
「許容範囲ですかね」
「ありがとうございます。ぱくりんちょ」
「独特な擬音だな」
「甘くておいしいです~! ぼくの中のびっぐらぶと呼応してべぎゃべぎゃします」
「あまり理解しようとしない方がいいことも世の中にはあるでしょう」
「勇者さんカラーというだけで、甘さが一層引き立つ気がしますよっ」
「味覚も異常をきたしているのですね」
「口の中が幸せでいっぱいです」
「細かいことを言えば、朱色なので赤色とは違うんですけどね」
「ぼくの目には赤色に見えますよ」
「視覚異常もあり、と。お医者様の仕事が増えました」
「満面の笑みで幸せそうに食べる勇者さんのお顔が幻覚だとおっしゃいますか?」
「そうですよ」
「そんな……! では、一体どんなお顔で食べているのですか!」
「普通の顔ですよ」
「つまり、すーぱーぷりちーすぺしゃるはっぴーすまいる……?」
「みなさん、深く考えなくていいですので」
「誰に言っているのですか?」
「魔王さんの幻覚と幻聴を目の当たりにするマカロンたちに」
「マカロンは食べ物ですよ」
「見てください。この真っ青なマカロンを」
「元から青いじゃないですか」
「貧血だそうです」
「恐怖で、とかじゃないんですね」
「マカロンに感情なんてありませんよ」
「貧血もないと思いますよ」
「砂糖が足りないのでしょうね」
「糖分過多はからだによくないですよ?」
「任せてください。私に案があります」
「ほお」
「朱色と朱色の間に青色を置くことで、朱色にひっくり返る」
「オセロ?」
「よほどびっくりしたのでしょう」
お読みいただきありがとうございました。
大体何か食べている。
勇者「優しい繊細な味がします」
魔王「おや、勇者さんでもそんなことを思うのですね」
勇者「箱に書いてあった感想をそのまま言ってみました」
魔王「身も蓋もない」