601.会話 やぎさんゆうびんの話
本日もこんばんは。
延々にループするタイプの童謡を見て絶望したこども時代。
「勇者さん、お手紙を書いたので、ぜひ読んでいただきたく……!」
「めんどうなので、手紙の内容を説明した手紙をください」
「読んだ方がはやいと思いますが」
「ちょうど焚き火に使う材料が足りなかったんですよね」
「せめて読んでから燃やしてくださいね?」
「もしもの時は、手紙の内容を訊く手紙を書きますよ」
「勇者さんったら、おかしな黒やぎさんですね」
「何か文句でもありますか、まっしろしろすけ」
「ですが、そんな勇者さんもすてきですよ」
「やかましいですね、白やぎさん」
「手紙を読まないことで、内容を訊く手紙のやりとりが発生します。つまり、延々とお手紙交換ができるということです。イコール、はっぴー魔王の誕生!」
「愉快な脳みそですよ」
「勇者さんからお手紙ついた。魔王さんたら読まずに保管した。仕方がないのでお手紙書いた。さっきの手紙のご用事なあに~」
「保管するなら読んでからでもいいような」
「大事に大事にラミネートします」
「やめてほしい」
「ぼくの手紙は大事に大事に食べちゃっていいですよ」
「私って人間ですよね」
「勇者さんは勇者さんですよ」
「人間じゃない可能性を残す言い方」
「ぼくはみなさんご存知の通り、白やぎさんです」
「へえ、知りませんでした」
「先ほどの手紙に書きましたよ」
「読んでいませんから」
「開けずともわかる部分に書いたはずです。ほら、表に『白やぎさんより』と」
「知らないひとからの手紙だったので不審に思ったのです」
「『魔王より』と書いたら読みましたか?」
「もちろん、読みませんでした」
「もちろんなのですね」
「魔王さんからの手紙なんて、ろくなことがあったりなかったりしますから」
「今のところ、何かしらの事件を起こした記憶はありませんが」
「いずれ、世界を揺るがしたりしなかったりしますよ」
「やけに保険をかける言い方をしますね」
「未来に責任なんて持てません」
「誰にもわからないことですから、責任を負う方が無理な話ですよ」
「『必ず』とか『絶対』とか、口が裂けても言えません」
「いいと思いますよ」
「この手紙の内容は絶対にどうでもいいことが書いてあります」
「絶対って言った……。口が裂けても言えないのでは?」
「口は、ね。こちらをご覧ください」
「あ、チーズが裂けている」
「おいしい」
「ですが、やはり読んでみないとわかりませんよ」
「いいえ、絶対にくだらないです」
「真面目な可能性も信じてください」
「何パーセントくらい?」
「二十パーセントほど」
「おや、割とありますね」
「……と見せかけた三パーセント」
「詐欺だ」
「真面目な話ばかりでは肩が凝るでしょう?」
「私たちとしては、たまには真面目な話をするべきだと思いますよ」
「雰囲気を穏やかに、関係性を健やかに、いつもの会話をいつまでも」
「それっぽく言えばいいと思ってます?」
「誤魔化せるかなって」
「では、やたらきれいな便箋も誤魔化すための道具ですか?」
「繊細でうつくしい作画のぼくになれるかと思いました」
「黙っていれば可能かもしれません」
「ぐっ……、ど、どれくらいの間でしょう?」
「なんですでに苦しそうなんですか」
「五分……、いえ、三分ならがんばれます」
「即席麵魔王さん」
「待ってください、手紙での会話ならしゃべる必要はありませんよね?」
「お互いに返事をすれば、の話ですよね。私は焚き火にくべますよ」
「繰り返される運命なのですね……」
「そういえば、最初の手紙の内容ってなんだったのですか?」
「今日はぼくのアホ毛が一ミリ長いのです!」
「やっぱりくだらなかった」
お読みいただきありがとうございました。
600話を超えようとくだらないものはくだらないです。
勇者「そもそも、変化魔法の姿が変わることがあるのですか?」
魔王「たくさん寝たので成長したのかもしれませんねっ」
勇者「成長……?」
魔王「ぼくの胸を見て首を傾げないでください」