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60.会話 枷の話

本日もこんばんは。

勇者さんの装備がちょっと変わるお話です。

「――っ! 痛……」

「どうしました⁉ あ、椅子に引っかかっちゃったんですね。うーん、どういう絡まり方ですかこれ。智慧の輪みたいになってますよ」

「やれやれ、ツイてないですね」

「……いい機会ですし、壊しちゃいますか?」

「……いえ。なるべくそのままでお願いします」

「勇者さんがそうおっしゃるなら。ちょっと時間かかるかもしれませんが」

「お任せします。私は身動きが取れませんし」

「痛かったら言ってくださいね」

「わかりました。……こうして存在を示されないとあることを忘れてしまいます。いいのやら悪いのやらです」

「片方だけだと歩きにくくないですか?」

「もう慣れましたよ。今では気になりません」

「差し支えなければ教えてほしいんですけど、この鎖、なにで切ったんですか?」

「さあ。わかりません。切ったのは私じゃないので」

「なるほどです」

「今の答えになりました?」

「ええ、じゅうぶんに。ところで、これも差し支えなければでよいのですが、枷を残す意味は一体なんですか?」

「深い意味なんてありませんよ。なんとなくです」

「なんとなくですか」

「ええ、なんとなくです」

「ずいぶん年月が経っているのでしょうね。すり切れて文字は読めませんし、錆びもひどいです」

「手入れなんてしませんからね」

「おかげで全然外れませんよう。がっちがちにかたいです」

「……もしめんどうなら、壊してしまって構いませんよ」

「もうちょっと粘りますよ」

「そうですか。ではお願いします」

「むむむう~……かなり難しいですねこれ。いっそ椅子を壊してしまいましょうか……、いえいえ器物損壊罪に問われてしまいます。錆びが取れればスムーズにいくかもしれませんね……。でも道具はないですし……。あ、ちょっと外れそう? むむむ……、ここが外れるかも……あっ‼」

「どうしました?」

「あ、あの勇者さん……。すみませんぼく……、つい力が入ってしまって……」

「ああ、鎖が切れましたか」

「それだけじゃなくて、鎖が切れた時の衝撃が枷までいってしまい……」

「ほんとだ。足が軽いですね」

「ご、ごめんなさい……。なるべくそのままって言ったのに……。どうしましょう、あの、何か弁償しますのでっ……」

「そんなのいいですよ。あんまり時間がかかるようなら壊すつもりでしたし、いつかは壊れるものでしょうから」

「でも……」

「そんな顔しないでください。むしろ、私が感謝する方なんですから。それに、壊れたのなら潮時だったんでしょう。それを捨てて先に行きましょうか」

「……あの、勇者さん。もしよければなんですが、ぼくにひとつ考えがあります」

「なんですか?」

「これ、いただいてもいいですか?」

「壊れた枷? 構いませんが、そんなガラクタどうするんです」

「しばらくここで待っていてください。すぐ戻ります!」

「ちょっと魔王さ――って、早いな。もう見えませんよ。一体どこへ行ったのやら。……それに、あんなものどうする気なんでしょうね。……両足に枷がない。変な感覚ですね。自分の足ってこんなに軽いんですねぇ……。ダイエット成功~なんちゃって。……さてさて、魔王さんが戻るまで一眠りしますか――」

「――者さん! 勇者さん! 起きてください勇者さん!」

「……むにゃ? おや、魔王さん。おかえりなさい」

「これ、勇者さんに」

「これは……。私がつけていた枷……とはちょっと違う?」

「アレンジしてみました。錆びを落とし、勇者さんを想像して模様をつけてみたんです。これならつけていてもおしゃれに見えるかなーって……。あ、鎖もちゃんとありますよ。ど、どうでしょうか?」

「………………」

「ハッ、勝手にいじるのはよくなかったですよね⁉ すみません一言なにか言うべきでした。ぼく、思いついて居ても立っても居られなくなって説明もなしに突っ走って勇者さんの私物をアレンジしちゃうなんて自己中心的な行動を――」

「魔王さん」

「ひゃいっ⁉」

「これ、いただいていいんですか?」

「は、はい、もちろん。勇者さんのために作ってきたので……」

「……うれしいです」

「えっ……、あの、ぼく勝手にいじっちゃったんですけどそれは……」

「すでに私の手を離れた物でしたから、なんの問題もありません。まさか、こんなすてきな物に生まれ変わって帰ってくるとは」

「喜んでいただけた……んでしょうか?」

「ええ。魔王さん、ありがとうございます」

「あっ、いえどういたしましてです」

「この模様、魔王さんがつけたんですよね」

「そうですよ。えいやーっと」

「以前の枷とは思えません。これは鳥と花でしょうか」

「はいっ。鳥は自由の象徴ですからね」

「きれいです。……不思議なものですね。思い出まできれいになっていくようで……」

「勇者さん?」

「いえ。ありがたくつけさせていただきます」

「はい。……あっ、とってもきれいですよ、勇者さん」

「そうですね。きれいに磨かれて、きらきらしています」

「がんばった甲斐がありました~」

「鎖も引きずらないですし、前より軽くなったようにも思います」

「ぼくの趣向が凝らされていますからね!」

「えいっ。せいやっ。おりゃー。うん、外れる心配もなさそうですね。私の足にぴったりです」

「やる気の無さそうな掛け声なのに風を切っている……。そしてさりげなくぼくを狙っていたような……?」

「まさか。私はいま魔王さんに感謝しているんです。この感謝は数時間は続きますよ」

「短い感謝ですね」

「元気出ました。どこか行きましょう」

「おお、珍しいことを……! どこへ行きます? あ、この近くに牧場があると聞いたんですが」

「いいですね。新鮮なミルク、上質な肉……。お腹すきました」

「そろそろお昼の時間ですね。牧場ご飯といきましょう」

「魔王さん」

「はい~?」

「ありがとうございます。いろいろと」

「いえいえ。お気になさらず。勇者さんがうれしいとぼくもうれしいですから」

「あと、ひとつ言葉の訂正を」

「なんでしょう?」

「今日はツイている日です」

お読みいただきありがとうございました。

勇者さんのお気に入りワンポイントアイテムになったとか、なっていないとか。本人しかわかりません。


魔王「これを機におしゃれしてみるのはいかがでしょう?」

勇者「これでじゅうぶんですよ」

魔王「眠れる原石をそのままにしておくなんてできません。いや、眠ってすらいませんけど! いつも光り輝いていますけど!」

勇者「魔王さんのめんどくさいモードが入りましたね。ほっとこ」

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