597.会話 ヒトガタの話
本日もこんばんは。
このSSに出てくる『人形』の読み方は『ヒトガタ』です。ルビはないです。
「今日は遠い国の古い習わしをやってみましょう」
「ただの紙ですけど」
「これを人形に切り、自分の厄災を移すのです」
「おまじないですか?」
「気持ち的にはそんな感じですね。最後に、水に流すことで浄化するのですよ」
「私が直接、川に入るのではだめなのですか?」
「そういう習慣もあるようですが、風邪をひくのでだめです」
「厄災をもって厄災を制するのです」
「いけません。勇者さんは厄災レベルが上がっていきますので」
「だいじょうぶです。風邪の次は熱で対抗しますから」
「大人しく人形を切ってください」
「ちょきちょきちょき……」
「ぼくも切ろうと思ったのですが、厄災はぼくなので不要でしたね」
「切れました」
「それに勇者さんの厄災を移してくださいな」
「どうやって……? ええと、撫でておこう」
「そうしたら、人形の紙を水に……って、なんですか?」
「厄災を移しているのです」
「だからって、ぼくに紙をすりつけなくても」
「厄災イン厄災」
「その理屈ですと、ぼくをパワーアップさせることになりますよ」
「厄災同士で反発し合って、自滅エンドという可能性は?」
「ないですねぇ」
「なでなで、すりすり、なでなで、すりすり。どうですか?」
「これ、間接ハグという解釈でよろしいですか?」
「なに寝ぼけたこと言ってんですか」
「勇者さんの厄災をぼくにいただけるのなら、喜んで」
「頬を赤らめないでください」
「全身全霊で受け止めましょう」
「魔王さんの厄災具合が強すぎて、かき消されそうですね」
「慈愛の手を伸ばし、すべてを仲間だと考えましょう」
「新たな厄災の誕生?」
「できることなら、全人類の厄災を引き受けたいと思います」
「こうして世界滅亡のカウントダウンが始まるのですね」
「自分で切る人形には個性が出ますし、大切に飾っておきたいです」
「生贄の所持品を飾るタイプの神様?」
「人間が作る人形というのがポイント高いんです」
「人間が人間を生贄に捧げるのと何が違うんですか」
「愚かな人間も愛しましょう」
「そうは言いますが、生身の人間を贄にする儀式はどう思いますか?」
「滅んでほしいですね」
「魔王さんの圧により、人形を切るようになったとしましょう」
「命を使う儀式を消し去れるのなら、いつでも呼んでください。圧を見せましょう」
「笑顔の圧もすごいですが、私としては真顔の方が効くと思います」
「おや、そうでしたか。気をつけますね」
「まあ、あなたは大体いつも笑顔ですから、いいですけど」
「ところで、何枚人形を作るおつもりですか?」
「壁に飾るあれ、なんでしたっけ」
「ガーランドですか?」
「そうです。その人形バージョンを作ろうかと」
「途端に儀式的な印象が……」
「日々厄災を吸収し、非常に強力な呪物にするのです」
「まとめて浄化するということですか」
「いえ、呪物対魔王さん」
「急に大怪獣バトルみたいな雰囲気が……」
「人間たちは小さなライトを振りながら応援します」
「一応、訊きますが、どっちを?」
「そりゃあ、呪物ですよ」
「ぼくはひとりぼっちですか」
「仕方ないので私が応援してあげてもいいですよ」
「一番応援しちゃだめな人」
「がんばれー、魔王さんー、がんばれー」
「棒読み」
「がんばって首とか頭とか関節をどうにかしろー」
「アバウトなアドバイス」
「そいってやっておりゃっとなってぐわぁな感じでえいやっですよー」
「すごい。欠片も理解できない」
「こうして、敗北した人形から解放された厄災は、今日も人間に降り注ぐのでした」
「バッドエンドじゃないですか」
「魔王さんが勝っちゃったから」
お読みいただきありがとうございました。
いま気づいたのですが、サブタイのようにカタカナにすれば解決でしたね。
勇者「この世界から魔族が消えないのは、魔王さんが強いからですか?」
魔王「合っているといえば合っています」
勇者「じゃあ、応援しなくてよさそうですね」
魔王「それはさみしいです」