596.会話 ミニチュアの話
本日もこんばんは。
今日は勇者の知らないミニチュアの世界です。火曜日じゃないです。
「勇者さん、この箱をじっと見ていてくださいね」
「びっくり箱ですか?」
「飛び出してくることはありませんが、驚くと思います。では、どうぞ!」
「……すごい。ちっちゃいですね」
「ミニチュア世界の魔王討伐シーンだそうです」
「へえ……。この黒くて角が生えているのが魔王ですか」
「作ったひとの中では、このイメージなのでしょうね」
「たくさんの人の先頭にいるのが勇者ですか。それっぽい見た目をしています」
「こんなに小さいのに、よくできていますよねぇ」
「魔王さんから見た人間たちは、こんな感じなんですね」
「何の話ですか?」
「ちっぽけな存在だということを伝えたかったのでしょう?」
「ぼくはただ、ミニチュア世界がかわいいなぁというだけで……」
「怪獣になった気分です」
「壊しちゃだめですよ?」
「想像で我慢します。まずは勇者を一撃でどーん」
「なぜ勇者から倒すのですか」
「リーダーをあっけなくやっつけることで、仲間の士気を下げるのです」
「やり方がえげつない」
「ここで、二つのパターンに分かれます。敵討ちに囚われる者と戦意を喪失する者です」
「ちなみに、勇者さんはどちらタイプですか?」
「最初からここにはいないと思います」
「なるほど。話を続けてください」
「前者は強い感情に支配されているので、普段より知能が低下していると考えます。一時の感情で短絡的な行動を取る可能性が高いでしょう」
「倒すことしか考えられない状況ですね」
「なので、落ち着いてどーん」
「落ち着いてどーん」
「後者は、そもそも動く気力がないのであっさりどーん」
「あっさりどーん」
「攻撃の衝撃で出口は塞がれ、残りの人々も惑いながらどーんされるでしょう」
「全滅じゃないですか」
「これが、今から二千年前に起きた勇者と魔王の戦いとされています」
「ぼくには『どーん』という技はありませんよ」
「この場で捏造してください」
「威力はどれぐらいですか?」
「適度に潰せる程度です。何がとは言いません」
「わかりました。持ち技の候補に入れさせていただきます」
「歴史の伝え方は書物が多いですが、ミニチュアという手もいいかもしれませんね」
「小さいながらも臨場感がありますよね」
「潰したくなる衝動だけが難点です」
「それはたぶん勇者さんだけです」
「物騒な世界だなぁ」
「優しい世界もありますよ。こちらをどうぞ」
「動物のミニチュア…………!」
「はーい、かわいい。想像通り。ありがとう作った人。おめでとうぼくの心」
「魔王さん、魔王さん、見てくださいこれ。ちっちゃいうさぎがいますよ……!」
「かわいいですねぇ、ほんとうに」
「ただでさえ小さなハムスターがこんなにちまっとしている……」
「モルモットもいますよ」
「すごくかわ――」
「かわ?」
「ま、まあまあですかね。人間よりも小さいのに、よくできていると思いますよ」
「もう強がらなくてもいいと思います。もろバレなので」
「いつまでも見ていられる気がします……」
「どうぞどうぞ。お好きなだけ」
「もっとたくさんのうさぎを置いて、パラダイスを作りたいなぁ」
「どうぞどうぞ。別売りのミニチュアうさぎがこちらに」
「ま、魔王さん、あなたってひとは……」
「えっへん、抜かりありませんよ」
「もふもふで埋め尽くそう」
「おやおや、見事なうさぎパラダイスですね。夢のような空間です」
「ふふーん」
「せっかくですし、ミニチュア勇者をこの中に入れ――」
「だめです」
「なぜですか。人ひとり分のスペースはありますよ」
「だめです。ここは聖域なので」
「勇者は聖域と相性がいいはずですが……」
「ここはうさぎさんの聖域。そう、ウサンチュアリーです」
「楽しんでいるようなのでそっとしておきますね」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんもよくIQが下がる。
勇者「作った人は手先が器用ですね」
魔王「訓練すれば勇者さんもきっとできますよ」
勇者「魔王さんは一生かかっても無理そうですね」
魔王「あはは、そうですねぇ。悲しい」




