592.会話 猫耳勇者の話
本日もこんばんは。
魔王さんが猫になったSSは55話『猫魔王の話』です。ご参考までに。
「ぼくもいよいよおしまいですかね……。猫耳を付けた勇者さんの幻覚が見えます」
「現実ですよ」
「であれば、ぼくが向かう先はひとつです。幸福なる死――」
「今日も元気そうですね」
「どうしたんですか、勇者さん。また精神を操られているのですか⁉」
「ここに魔法使いはいませんよ」
「では一体、どういうことなのです。ご自分の意思で猫耳をつけようと?」
「……そうですね」
「なにゆえ? なにゆえなのですか? 誰かに脅されているのですか?」
「いえ、本に書いてあった必殺技を試してみようと思っただけです」
「きっと変な本を読んだのでしょうが、今回ばかりはナイスです……!」
「とはいえ、特に効果が感じられませんね」
「ぼくを見てもそう思いますか?」
「だって、生きていますし」
「すみません、不老不死のせいで」
「猫耳は意味がないと。論文にまとめて発表しないといけませんね」
「もっと研究してからの方がいいですよ。猫耳勇者さんのまま数日過ごしてみましょう」
「誰が得するんですか?」
「ぼくっっっっっっっ!」
「音量バグ」
「幸せ過多につき呼吸困難の症状がみられます」
「病院に行かなくていいのですか?」
「お医者様から原因を訊かれて『は?』と言われる未来が見えたので」
「そこは冷静なのですね」
「理性が吹き飛んでしまうと、猫耳勇者さんを正しく記憶しておけないのでね」
「あなたの中の私は大体間違っていると思います」
「ふっ、実におもしろい勇者さん……」
「落ち着いた雰囲気ですが、手が震えていますよ」
「脳内が信じられないくらいぐちゃぐちゃです」
「魔王さんがこんなに鋭い目をしているのは初めてかもしれません」
「本気で命の危機を感じています。人間はこのような感覚を日々味わっているのですね」
「猫耳と魔なるものを同列に考えるのは魔王さんくらいですよ」
「動悸が止まりません。冷や汗と震えが尋常じゃない」
「意味がわからないなぁ」
「猫耳をつけているだけでこの威力……。一応、言っておきますが、『勇者さん自ら』という点が非常に重要なのです。さっぱり理解していないお顔がいい……」
「ふうん。じゃあ、これはどうなりますか?」
「これとは」
「にゃあ」
「………………………………………………………………………………………………」
「あれ、息をしていない」
「………………………………………………………………………………………………」
「ほんとに死んじゃった?」
「…………ぼく」
「あ、生きてた」
「…………ぼく、ちゃんと人の形をしていますか?」
「だいじょうぶですよ。相変わらず聖女みたいです」
「ぼくというぼくが今の一瞬で世界を二十四周しました」
「多いのか少ないのかわからないのでコメントしづらいです」
「もうどうしたらいいのかわからないよう……」
「泣いちゃった」
「どうして勇者さんは勇者さんなの……」
「バルコニーにいた方がいいですか?」
「たった一言で世界が救われる。それを知っていてください」
「さっきのセリフ、魔王さん以外は誰も聞いていませんけど」
「すべての力を使って記憶しました」
「お好きにしてください」
「ハッ⁉ 録音していません」
「そうですね」
「お、お願いです。もう一回。録画させてください」
「嫌です」
「お願いします。なんでもしますから」
「なんでも?」
「なんでも!」
「明日の夜……」
「は、はい……!」
「夕飯はオムライスがいいなぁ」
「ぼく、勇者さんはずっとそのままでいてほしいです」
「猫耳ですか? これは今日限りですよ」
「そういうところがすてきなのです」
お読みいただきありがとうございました。
魔王さんが不死じゃなかったらとっくに死んでいます。
魔王「それはそうと、軽々しく『なんでもする』なんて言ってはいけませんからね」
勇者「自分で言っておいて」
魔王「ぼくはいいのです。魔王ですから」
勇者「全然わかんないや」




