591.会話 激辛チャレンジの話
本日もこんばんは。
何事もほどほどが一番です。
「なぜ、人は苦しみながら激辛チャレンジをするのでしょうか」
「娯楽でしょうか?」
「激辛チャレンジの起源は、今から一億と二千年前に遡ります」
「なんだか歌いたくなる年数ですね」
「食糧難に陥った人間は、偶然見つけた唐辛子を食べました」
「唐辛子はあったんですね」
「あまりの辛さに、人間の八割が死んだとされています」
「めちゃくちゃ死んでいるじゃないですか」
「生き残った二割が、今の人間の祖先です」
「そうだったんですね。そうじゃないことは知っているのですけど」
「私はその二割に入っていますので、激辛に強いと考えられます」
「そうなんですか? ぼくの知らない事実です」
「激辛チャレンジで食糧難を解決したため、人間は本能的に辛いものを求めるのです」
「なにゆえ?」
「生存本能ですよ。いざという時のため、どんなに辛いものでも食べられるように」
「なるほど~。あ、また納得しちゃった。勇者さんのトンデモ物語に」
「そういうわけで、私も激辛チャレンジをしてみようと思います」
「激辛チャレンジというか、これ間違えて買ってしまった辛口カレーですけど」
「どきどきしますね」
「もったいない精神はよいことですが、無理はしてはいけませんよ。辛みというのは個人差があります。無理に食べれば健康を害するおそれもありますからね」
「とりあえず一口だけ」
「気をつけてくださいね」
「いただきます。もぐもぐ」
「まあ、辛口といっても一般的なものですから、食べられないことはないかと」
「……………………」
「勇者さん?」
「……………………」
「勇者さん、だいじょうぶですか? ぴくりとも動いていないのですが」
「……………………い」
「い? なんですか?」
「…………………………………………からい」
「声ちっさ! お、お水をどうぞ」
「…………………………………………すごくからい」
「震えている。勇者さんが震えている」
「……………………しんじゃうかもしれないです」
「生き残った二割の方の子孫じゃないんですか?」
「八割の方だったかも……」
「勇者さんのお顔が真っ白!」
「指先が震える……。魔王さん、どうやら私はここまでのようです……」
「ただの辛口カレーなのに!」
「意識が遠のいてきました……。魔王さん、約束を果たす時です……」
「い、いやです。シチュエーション的にいやです」
「私たちにすてきなシチュエーションがあると思いますか」
「真顔で言われちゃった」
「辛さを軽減するものがほしいです」
「飲み物なら牛乳、食べ物ならアイスクリームがいいらしく、逆に水はだめなのだとか」
「さっき、水をくれましたよね」
「すみません、咄嗟のことで。今度はアイスクリームをご用意してありますので」
「冷たくて甘い……」
「勇者さん、辛口カレーでこの状態では、とても唐辛子は食べられませんね」
「いけると思ったのですが」
「今のご自分を見てもそう思いますか?」
「……無理なこともあると思います」
「よろしい。では、残りのカレーはぼくが食べますので」
「二人分の量がありますよ」
「平気です。今後、三日間、三食カレーにすれば食べ切れます」
「私は何を食べましょう」
「カレーがいいのなら甘口を買ってきます。別のものがよければ言ってください」
「以前、テレビで観たグリーンカレーというものを食べてみたいです」
「カレーの中でも辛いやつ」
「あと、火鍋というのも気になります」
「知らないで言っているから、このラインアップは偶然なんでしょうけれど」
「さんらーたん、という料理も名前がおもしろくて食べてみたいです」
「酸辣湯ですね。無意識に辛いもの縛りをしていらっしゃるのでしょうか」
「どうでしょうか、魔王さん」
「そうですねぇ。作れないことはありませんが、勇者さんを大事にしたいので」
「どういう意味ですか?」
「今日は辛さ控えめキムチ鍋のチーズ煮込みにしましょう。辛さは控えめのね」
「なんで強調したんだろう」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんは辛いものが苦手です。
魔王「辛さはどうですか?」
勇者「ちょうどいいです。魔王さんはだいじょうぶですか?」
魔王「えぇ、はい、全然辛くな――こほん、少しピリッとしますがおいしいです」
勇者「それならよかったです」




