59.会話 クッキーの話
本日もこんばんは。
クッキー片手にお読みください。
「勇者さん、クッキー食べませんか?」
「食べます」
「作るところから」
「作……。なるほど、働かざるもの食うべからずですか。いいでしょう」
「あれ、結構あっさりですね。もっとぐずるかと思いました」
「ぐずるって幼いこどもじゃないんですから……。それで、私は何をすればいいんです」
「すでにクッキー生地はできているので、一緒に型抜きしましょう!」
「……ははーん。それがやりたかったわけですね」
「何か言いました?」
「いえ。これがクッキーになるんですね。型は星にハート、うさぎに猫、これはなんだ」
「バッファローですね」
「バッファロー」
「他にもペリカンやサイ、サオラにセンザンコウ、ウッカリカサゴ、タコノマクラ、スベスベマンジュウガニなどがありますよ」
「そうなんですね。途中から想像できなくなっていきましたけど」
「おすすめはスッポンモドキです」
「ああ、はい……。じゃあ使いますね……」
「生地はたくさん作ったので、遠慮なくスベスベマンジュウガニを量産してくださいね」
「こんなにうれしくない提案も珍しいですね」
「お嫌いですか? ウッカリカサゴ」
「存じ上げないのでなんとも言えません。そもそも、よく売ってましたね、こんな型」
「ぼくが作りました」
「自作」
「どうせなら好きな形のクッキーを食べたいでしょう? 同じ生地を使っていても、形だけで気分が変わるものですよ」
「そうですね。この私があんまり気乗りじゃないですからね。効果は抜群ですよ」
「勇者さんだったらどんな型を作りますか?」
「そもそも型は作るものじゃないですけどね。私だったら無難に……鳥とか」
「えっ。焼肉定食じゃないんですね」
「さすがに敬意を払いますよ。クッキーにはクッキーらしい生き方があるでしょう」
「いけませんよ、勇者さん。型にはまった考え方では生きづらいです」
「こんなにすっぽ抜けるのに?」
「勇者さん、型抜き下手すぎません? 生地がぜんぶくっついているじゃないですか」
「いやあ、これはうっかり」
「おや、これは?」
「型を使わずに作ってみたクッキーです。よくできているでしょう?」
「天才の所業ですね。不死鳥ですか?」
「えっへん。我ながらいい出来です」
「翼の造形が細かすぎるんですが、何を使ったんですか?」
「サイの型の角の部分を拝借しました」
「まさかの応用」
「魔王さんが言ったんですよ。型にはまるなと」
「そういう意味ではありませんけどね」
「これはオウギワシ、こっちがケツァール、次いでシラサギ、そしてフクロウオウム。おすすめはハッカンです」
「なるほど。こんなにわからないものなんですね」
「シラサギの美しい白色の体には感動すること間違いなしです。ケツァールの色鮮やかさには目を見張りますよ」
「焼いたら全部茶色ですけどね」
「せっかく型から飛び出しても連れ戻されてしまうんですね。悲しいです」
「そう言わずに、さあ焼きますよ。そぉい」
「さて、焼けましたか?」
「はい。あ、食べるのは待ってください。これをどうぞ、勇者さん」
「なんですか、これ。ペン?」
「チョコペンです。それでクッキーに模様を描いたり色を塗ったりできるんですよ」
「フクロウオウムのつぶらな瞳を再現できるんですね……!」
「フクロウかオウム、どっちかわかるようにしてほしいです」
「焼けた不死鳥が新たな命を得る瞬間ですよ」
「全員一度焼けていますけどね」
「……魔王さん、私はもしかしたら天才なのかもしれません」
「改まってどうしたんです」
「ご覧ください。現世に降臨した不死鳥を」
「そんな大げさな。クッキーでしょう? たしかに焼く前の造形は素晴らしかったですが、こういうのは焼くと形が――ってこれは⁉」
「どうですか、神々しいと思いませんか?」
「軽い気持ちで始めたクッキー作りで不死鳥と相まみえるとは……! ぐっ……、心なしか熱も感じます……!」
「そりゃあ、焼きたてですからね」
「むぐぁあ⁉ 熱っ‼ 口の中が焼けるようですぁぁぁ⁉」
「効果は抜群のようですね」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんは地味に芸術センスが高いです。
勇者「人間型の型抜きはありませんか」
魔王「人型って言ってください。ありますよ。なにに使うんですか?」
勇者「愚かな人間どもを量産して焼き尽くし、完成後に胃の中で粉々にしてやろうと思いまして」
魔王「作って焼いて食べる行為の言い換えってこうなるんですね」




