589.会話 チョコがもらえる日の話
本日もこんばんは。
バレンタイン関連のSSは226話、436話です。ご参考までに。
「魔王さん、魔王さん」
「なんですか、勇者さん。かわいいですね」
「今日はくれないのですか?」
「何をですか? それにしてもかわいいですね」
「私は知っています。今日はチョコレートがもらえる日なんですよね」
「えええええ~~! ちょっと待ってください? だからうきうきしているんですか? はああぁぁあぁぁぁあ~~? そんなかわいいことある? どうぞ、チョコレートです」
「わあい。覚えていた甲斐がありました」
「頃合いかと思いますので、お教えしましょう。今日はバレンタ――」
「チョコがもらえるでー。なんちゃって」
「……………………」
「魔王さん?」
「……いい、人生でした……」
「不老不死が何を言っているのやら」
「もう悔いはありません」
「その割にはカメラを構えているようですが」
「現像してぼくの棺桶に入れておいてください」
「めんどくさいです」
「では、自分でやりますね。何枚撮っていいですか?」
「一枚もダメですけど」
「勇者さんがチョコレートを食べている写真をこの世に残さないでどうするのです?」
「いりませんよ、そんな写真」
「次もおいしいチョコレートを作ることと引き換えに」
「…………一枚ならいいでしょう」
「勇者さん、ぼくの料理に甘いですよね」
「そりゃあ、チョコレートは甘いですよ」
「そうじゃないけど、かわいいからいいや」
「以前はチョコレートに文字が書かれていたようですが、今回もそうですか?」
「はいっ、もちろんですよう」
「前回は『愛』でしたが、今回は……、なにこれ」
「『Ndinoda gamba』ですよ」
「なんて?」
「意味は……、照れ照れ」
「理解できないので照れられても困りますけどね」
「んもう、勇者さんったら、わかっているくせに~!」
「わかりませんよ。何語ですか」
「自分の気持ちをまっすぐ伝えるのって、勇気がいりますね……!」
「普段の言動を振り返ってみてください」
「ひとまず、違う言葉で想いを伝え、気持ちの準備をしようと思ったのです」
「私の気持ちは混乱しています」
「もちろん、お返事はいつでも構いませんので……!」
「返事をしようにも、意味がわからないと言っているのですが」
「勇者さんったら照れ屋さんですねぇ」
「噛み合わない会話」
「お味はいかがですか?」
「おいしいです。読み書きができる前に戻った気分も味わえるチョコレートですね」
「過去に想いを馳せる目をしていらっしゃいます」
「遠い目をしているんですよ」
「もしよろしければ、お返事は紙に書いてくださいませ」
「そういう感じでいいんですね」
「言語は統一してください」
「難易度が跳ね上がった」
「勇者さんもありのままの気持ちを教えてくださいね」
「ありのままですと、『わからん』になりますけど」
「それもひとつの答えかと」
「判定はガバガバなんですね」
「ぼくは気持ちを伝える用のチョコレートを量産しようと思います」
「言葉を刻むなら、私がわかるものにしてください」
「そっ、そんな、恥ずかしくてできませんよう」
「今日の魔王さんは別人なんですかね」
「とてもじゃないですが、大好き愛してるびっぐらぶ眠る横顔眺めたいできれば抱きしめたい写真も動画も一生撮りたいぼくだけを見ていてほしいまじで愛なんて言えません!」
「安心してください。全部言ってますよ」
「チョコレートの力をお借りするしかないのです」
「ここまできたら、ただ作りたいだけですよね」
「そういうわけで、勇者さんもぼくへの想いを叫んでくださいね」
「いえ、結構です」
「勇者さーん、『Ndinokuda』」
「だから、なんて言っているのですか?」
「普段の言動を思い出してみてくださいな」
お読みいただきありがとうございました。
魔王さんが使った言語はショナ語です。ちゃんと翻訳できるので、気になった方は調べてみてくださいませ。
勇者「わからないけれど、わかるような気がします」
魔王「ぼくの気持ち、伝わりました⁉」
勇者「『この世の魔物よ、死に絶えろ』ですね?」
魔王「すごいです、勇者さん! 全然違います!」




